『朝のひかり』
By 籠崎星海さん   

 朝、起きてみたら。
「あれ? ガウリイ?
‥‥どこに行っちゃったんだろう」
 ガウリイが居なくなっていた。
 家の中を探してみたけど、どこにも居ない。
「‥‥‥ったくっ!
あたしに無断で、どこへ行っちゃったのよ!
あのクラゲッ!!」


 ハアーッ‥‥と大きくため息をつくと、窓から外を眺めた。
 外はまだ、暗い。
 かすかに明るくなってきたかなー?って感じだ。
 まだ夜も明けてないってのに‥本当にどこへ行ったんだか。
 あ〜あ、いくらなんでも、起きるには早過ぎるしなー。
 寝なおしちゃおっか。
 ぼーっと、窓枠に肘をついて、窓から外を眺めていると。


 ‥‥‥‥!‥‥‥‥!‥‥
 ‥‥あれ?今、何か聞こえたよーな。
 ‥‥‥‥!‥‥‥‥!‥‥
 うん、確かに聞こえるわね。何の音だろ。


 音は‥あの林の方から聞こえるみたいね。
 そう思って、家の前にある林をよ〜く見てみると。
 ‥‥何かが動いている。
 暗くてよく見えないけど‥‥確かに、何かが。


 ‥‥‥う〜ん、どーしよ。
 見に行ってみよっかなー。
 なんか、目が覚めちゃって、もう眠れそーにないし。
 あれがなんだか、気になるし。
 よしっ!行こっと!
 あたしは、急いでパジャマの上からガウンを羽織ると、表へと出てみた。


 ヒュンッ‥‥‥ヒュンッ‥‥‥
 音のする方に近づいてゆくにつれて、段々音が大きくなっていく。
 これって‥剣が空を切る音?‥みたいだけど。
 何で、んなもんがこんな時間に、こんな場所から聞こえてくんのよ。


 ヒュンッ!‥‥‥ヒュンッ!‥‥‥
 さらに近づいて行くと、さらに大きくなって行く音。
 ガササッ!
 木の枝をかき分けて進むと‥‥そこはちょっとした広場になっていた。
 そこに居たのは。
「‥‥ガウリイ?‥‥‥あんた、こんなトコで何やってんのよ」
 ガウリイだった。


「おう、リナ。起こしちまったか?ワリィ」
 そう言って笑うガウリイの手には剣があって。
 体中、汗だくで。
「‥‥ひょっとして‥剣の練習してたの?」
「ああ、夕べやりそこねちまったからな。
キチンと毎日、やんないと、腕が鈍るから」
 そう言うと、また練習を始める。


 ヒュンッ!!‥‥‥ヒュンッ!!‥‥‥
 ガウリイが剣を振るたびに、剣で空を斬るたびに、結構大きな音がする。
 ‥あたしじゃ、あんな音は出ないよなー。
 やっぱ、こいつ、腕が違うや。


 ヒュンッ!!‥‥‥ヒュンッ!!‥‥‥
「リナ。寝なくて、いーのか?」
「うん、目が覚めちゃったから」
 ヒュンッ!!‥‥‥ヒュンッ!!‥‥‥
「リナ。見てて‥飽きないか?」
「うん。別に飽きないよ」


 時々、言葉を交わしながらガウリイの練習は続く。
 飽きないよ。動いてるガウリイって、なんかキレイだし。
 すっかり明るくなって、ガウリイの姿がよく見える。
 動くたびに飛び散る汗‥‥ホントにキレイだ。
 ‥‥‥こんな事、恥ずかしいから、言えないけど‥さ。


 やがて。太陽が東の空に顔を出した頃。
「ふーっ‥‥これで終わり、っと」
 ガウリイの練習が終了した。


「お疲れさま。終わったんなら、戻ろうよ。
なんか、冷えてきたし」
 思わず、身震いする。
 やっぱ、パジャマにガウンじゃ、夜明け前に長時間外に居んのはキツイわねー。
 それを来た途端。
「お、おい、リナ。大丈夫か?
風邪なんか引くなよ?」
 心配そうな顔をするガウリイ。
 ったく、相変わらず心配性なんだから。
「大丈夫だって。それより、戻りましょ」
 手をピラピラ振ると、歩き出す。
 もちろん、ガウリイも一緒だ。


 家に戻って、中に入ろうとすると。
「あ、リナ、先に行っててくれないか。
オレ、水浴びしてくるからさ」
 ガウリイはそう言って、庭にある井戸へと向かった。
「そう?じゃ、あたし、タオル取ってくるわね」
 あたしは急いで部屋へと戻った。


 タオルを取って外へ出る頃には、太陽は完全にその姿を現していた。
 うん、今日もいい天気みたいね。
 ‥‥な〜んて、言ってる場合じゃなかった。
 早いトコ、タオル届けてやんないと、濡れたままじゃ、風邪ひいちゃう。
 ま、あいつなら、風邪の方から逃げていきそうだけど、万が一、って事もあるし
ね。
 あたしは急いで、井戸に居る筈のガウリイの元へと向かった。


「ガ〜ウリイ〜!タオル、取って来たわよ〜!!」
 井戸に備え付けてある、桶を使って水をくんでるガウリイに声を掛けたけど。
 ザバアッ!!
 ‥‥どーやら聞こえてないわね。あれは。
 ま〜だ水かぶってるわ。


 ザバアッ!!
 仕上げの一杯、とばかりにガウリイは勢いよく水をかぶると、頭を振った。
 あたしは‥‥その場に立ち止まって、息を呑んだ。
 ‥‥‥‥‥なんて‥‥‥キレイなんだろう‥‥


 キラキラと光を反射して輝く水の滴と。
 その水よりもさらに美しく、光を反射して金色に輝くガウリイの髪とがあいまっ
て。
 あたしの目の前には‥‥この世のものとは思えないほど美しい光景が繰り広げられ
ていたのだった。


「‥リナ‥‥リナ‥‥‥リナ!」
 はっ!!
 あたしは、ガウリイの声で我に返った。
 いっけない‥つい、見とれちゃった。


 何が起こってるのか分からずに、不思議そーな顔をしているガウリイに、
「あ、ごめん。はい、タオル」
 そう言ってタオルを渡すと。
「サンキュー、リナ」
 ニッコリと笑ってタオルを受け取る、ガウリイの笑顔が、これまたキレイで‥‥
 あたしは思わず見とれてしまったのだった。


 うっ!‥‥い、いかん、いかん‥‥
 ガウリイがあんまりキレイなんで見とれてました、な〜んて、ガウリイに知られる
わけにはいかないわっ!!
「ホラ、水浴びも終わったんなら、早いトコ戻りましょ!
もう、お腹ペッコペコなんだから!」
 そう言って、急いで家へと戻る。
 ‥‥気づかれて、ないわよね?


「‥‥‥いや、あの‥‥リナ‥思ってるコト、ぜ〜んぶ口に出して言っちゃうクセ、
直した方がい〜んじゃないのか?
‥‥‥まあ、オレとしては、嬉しいんだけどさ」


                      

 END

                    

********************


これはあの絵を見て、思いついた話なんですけど、いかがでしょうか。

この話には、いくつか、仕掛けがあります。
まず。なぜ、起きるなり、リナはガウリイが居ないのに、気づいたのでしょうか。
ガウリイの部屋を覗く描写がないのは‥ちゃんと、意味があります。
次に。「宿」でなく、「家」である事。
最後に。「夕べ練習しそこねた理由」とは?
ええ、どうぞ、深読みしてください(笑)

(籠崎さんのメールから了解をいただいて、抜粋しました〜)


げすとるぅむへいべんとほぉるへ