ばい・貴深さん
「あたしの手に、どうしてそのくつした履かせるわけ!?」
「クリスマスのくつしたには、プレゼントを入れるモンだろ?」
聖なる夜。
ガウリイにパーティの用意をさせて、あたしたちはそこでプレゼント交換をした。
あたしは手編みのセーターを。
ガウリイは2対のイヤリングを。あたしからのプレゼントが1つなのに対し、ガウリイからのプレゼントは2つ。
割が合わないと言い出したガウリイは、おもむろにあたしの手にくつしたを履かせたのだ。
『くつしたは足に履かせるもんじゃないの?』
あたしのツッコミにはお構いなく。
『あたしをプレゼント扱いしないでってば。』
言っても聞くわけがない。あたしが苦し紛れに『あたしの方が手間が掛かってるじゃないの』と言うと、ガウリイは一本のリボンを取り出したのだ。
「ほら、リナ。」
言われた声に顔を上げれば、首にリボンをつけたガウリイの姿。
「なにそれ。『オレがプレゼントだ』なんて言うんじゃないでしょうね。」
ふと脳裏をよぎった何かに慌てて首を振るが、振っても無駄だった。
ガウリイはさも当たり前と言う顔をして、こう言ってのけたのだ。「そのとおり。オレをおまえさんにやる。オレは、おまえさんを貰う。」
「だっ・・・恥ずかしいこと言うんじゃないの! だ、だいたいね、あんた・・・・」「恥ずかしいだけか?」
言葉が続かなかったあたし。
そりゃそうだ。
端整な顔が至近距離に迫られ。
あたしを守ってくれるその手が、あたしの両の頬に添えられ。
瞳を覗き込まれたら、頭の中が真っ白になった。「恥ずかしいだけで、そのこと自体には問題ないわけだな?」
瞳の中の蒼い光がゆらゆらと揺れて。
あんまり真剣に言うもんだから、あたしはそれを見てられなくなった。
―――閉じてしまった瞼の裏に、満面の笑みのガウリイが浮かんでいた―――
唇に軽く触れた感覚。
体中の熱がそこに集まり、そして拡散していく。くつしたを履いたままの手をガウリイの胸に手を置くと、あたしがあげたセーター越しに伝わってくる。
心臓がどくどく言ってる。あたしと同じ。「リナ・・・リナ・・・・・」
うわごとのように呟くガウリイに唇を合わせる。
瞳を開けると、見えていた蒼い瞳は瞼の向こうに隠れていた。
あたしはちょっと優位に立った気がしてキスを繰り返す。ふふ。
クリスマスのプレゼント。
ホントはセーターだけのつもりだったけど。
トクベツに、あたしだけのプレゼントもあげる。あたししかできないこと。
ちょっとくつしたがアレだけど、あたしはガウリイの首に両腕を絡ませる。
あわせた唇を離し見つめると、瞼がゆっくりと上がった。
のぞいた蒼い瞳に、あたしは満足する。やわらかい笑顔に微笑み返し、耳元に唇を寄せる。
一言囁くと―――
ガウリイは微笑んであたしを抱きこんだ。
――――夜が更ける――――
ガウリイが身じろぎしたのが分かった。
あたしは窓をあけ、外の冷たい夜の空気を吸い込む。
身体が引き締まる感覚と、意識が研ぎ澄まされる感覚。「ガウリイ。ねえ、ガウリイ。」
短い呻きが聞こえて、それから大きな腕が伸ばされた。
何かを探すかのように宙を彷徨い―――「―――リナっ!」
飛び起きたガウリイに、あたしはにっこりと微笑む。
「ガウリイ。起きて。さ、行くわよ♪」
「・・・・何処へ行くって言うんだ? リナ??」半分寝ているのか、目をしぱしぱさせながらあたしを見つめるガウリイ。
蒼い炎が宿ったようなのも良いけど、こう言うのも良いわね〜♪「付き合ってくれるわよね♪ 盗賊いぢめ(はあと)」
「はあ?」
「だから、盗賊いぢめ♪」
「ダメだ。ダメだ。ほら、寝ようぜ。」あたしを引き寄せるガウリイの腕をぺちん!と叩いて、あたしは再びにっこりと微笑む。
文句は言わせないわよ?「ガウリイ。自分の言ったこと、忘れてないわよね?」
ガウリイは“?”をたくさん浮かべて、首をかしげる。
やっぱり覚えてなかったか・・・・あたしはすーっと大きく息を吸い込み深呼吸をする。
そして、一言。「あたしはクリスマスプレゼントにガウリイを貰ったんだから♪」
***
実は、これには後日談があったりする。
この晩、ガウリイと一緒に盗賊いぢめに行った。
行って、一通りの収穫を得、ストレスを発散したところで―――あたしはモノの見事に逆襲されちゃったのだ。
「自分の“もの”をどう扱おうが、自由だろ?」
<おわり>