うさぎ花婿 豆まき
 〜 或いは 節分に豆をまくワケ 〜


By P.Iさん    






みなさんは、豆まきってご存知ですか?
節分の日の夜、炒ったお豆を家の中や外にまく、あれのことです。
みなさんのお家でも、きっとやったことがありますね。

でも、一体どうして“豆を”まくんでしょう?

厄を祓うため?
今年の豊作を祈るため?

理由は所によって様々なようですが、
私が知っているのは、こんな言い伝えなんですよ。

それは、ある家族にまつわるお話です。







  ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆







「ねぇ、パパ。どうしてうちでは、せちぶんにお豆をまくの?」
「エイラ、“節分”だよ。“せちぶん”じゃなくて。
 で、どうしてかって言うとだなぁ。う〜ん、それは…………………ぐぅ」
「パパったら、ねちゃだめ〜〜っ!」


  ぺちきゅー☆


「いてっ! こぉら、痛いじゃないか、エイラ!
 ……どうしたんだ、そのウサギさんスリッパは?」
「えへへ、かわいいでしょ♪ この間ママと町におでかけしたとき、買ってもらったの!
 ほらほら、たたくと音がするんだよ〜♪」


  ぺちきゅ☆ ぺちきゅ☆


「だああっ、止めなさい!
 ……お〜い、リナぁ〜〜っ!!」

「なーに、ガウリイ? ごめんなさい、今、手が離せないのよーっ!」

「ったく……。
 いいかい、エイラ。スリッパってゆーのはなぁ、叩くもんじゃなくて、足に履くもんだ。
 さ、いい子だから、履かないんだったら大事に仕舞っときなさい!」
「え〜、でも、ママはこれでパパをたたくのに〜?」
「ママとパパはいいの! あれは大人同士のスキンシップなんだからっ!
 ……で、なんの話だったっけ?」
「ま・め・ま・き」
「おぉ、そうだったそうだった!
 えーと、うちで豆まきをするようになったのはな、
 今からちょっとだけ昔、エイラが産まれる少し前のからことなんだ」





   * * * * *





「その頃ママは、まだ十代のカワイイ娘だったんだが、とてもしっかりしていて、一人でこの店を切り回していたんだよ」
「パパは? パパはその頃なにしてたの?」
「パパは……、パパは、ちょうどママと出会ったばかりだった。
 出会って、一目で好きになったんだ。
 なにしろママは、くるくるとよく働く、とぉーってもステキな女の子だったから。
 もっちろん、リナは今でも最高だけどな♪」
「パパ、よだれ……(汗)」
「……おっと!(じゅる)
 ところが、ママを素敵と思ったのはパパだけじゃなかった。
 やっかいなことに、ママは魔族のヤツにも見初められてしまったんだ」
「“まぞく”って?」
「魔族それは……、闇に身を置き、恐怖と滅びを司るもの!生きとし生けるものの天敵!
 百害あって一利なし!害虫以下のシロモノ! 火曜日は生ゴミの日だぁぁっっっ!!!」
「……ママ〜、パパがなんかむずかしいこと言ってるよぉ〜〜!」

「あら、大変! 明日は大雨かしらね〜。お布団干したかったのに」

「……お前たち……」
「それで?その魔族はママになにしたの?」
「……(溜息)。
 そいつはな、図々しくもママに、自分のお嫁さんになれと言ってきたんだ。
 これにはさすがのママも困ってしまった。
 なにしろそいつは、獣神官の位を持つかなり高位の魔族で、下手に断ろうものなら命を奪われかねない。
 かと言って、おとなしくそいつのお嫁さんなんかになるのもイヤだ。
 そんなことをすれば、一生イジメ抜かれて、ヤツの餌食にされるってことは分かりきっていたからね。
 連中は人間の負の感情を……、
 “負の感情”って、イミわかるかい?」
「『ヤだーっ!』っていう気持ちのことでしょ?」
「その通り。賢いなぁ、エイラは。
 魔族は、人間のその『ヤだーっ!』って気持ちが大好物なのさ」
「うぇ〜!それってヘンタ〜イ!」
「まったくだ!
 しかし、ママはどうすればそのヘンタイを退けられるか分からなくて、途方にくれていた。
 ──── そこで、いよいよパパの出番という訳だ」




   * * * * *




「パパはママが大好きだったからね。
 ママが困っているのを見るのも、ママを魔族なんかに取られるのにも、我慢できなかった。
 それで、その魔族を追っ払う方法を、こっそりアドバイスしてあげたんだ」
「すごい、パパ! 一体どうやってそいつをやっつけたの?」
「いや、さすがに退治するのは無理だったよ。
 だから、ママに教えてあげたのさ。
 次の日の夜そいつがまた来たら、
 『嫁入りの支度に時間がかかりますので、これの花が咲くころ迎えに来てください』
 そう言って、よーく炒った豆を渡してやれってな」
「ええっ! そんなんで、うまくいったの!?」
「上手くいったんだな〜、これが♪
 どうやら、あいつらは豆なんて食わないから、炒った豆には花どころか芽も出ないってことを知らなかったらしい」
「あはは! おばかさんだねぇ、魔族って!
 じゃあ、もうそれっきりその魔族はやって来なかったんだね?」
「いや〜、その後も一年に一回くらいの割合で来てはいたよ。
 あの豆はちっとも芽が出ないから、他のヤツと替えてくれ、とか言ってな。
 無論、その度にまた別の炒り豆を渡して追い返してやったが。
 で、その魔族を最初に追っ払った日というのが、立春の日の前日、つまり節分の日だったから、
 以来わが家では、節分に豆をまくのが習慣になったという訳だ。
 魔族祓い、厄除けのためにな」
「ふ〜〜ん、そうだったんだ〜……。 あっ!」


  ぽむっ☆


「わかった!! そうやってピンチを救ってくれたから、お礼にママはパパをおムコさんにしたんだね!!」
「そうそう♪」

「違うわあああっっ!!!」


  すっぱーーーんっ☆


「いってーーっ!!」
「あ、大人のすきんしっぷ」
「不意打ちとは卑怯な……ってゆーか、なんで叩くんだよ〜、リナ!?」
「どやかましっ!! さっきから黙って聞いてれば、子供にいいかげんな話ばっか吹き込んでっ!!
 な〜にが『そうそう♪』よっ!! このあたしが“お礼”で結婚なんてするもんですかっ!!
 大体、あんたがあたしにゼロス撃退法を教えたのだって、
 あんたを人間に戻すのにあたしが協力してあげた、そのお返しだったからでしょーがっ!!
 話を都合よくはしょるんじゃないっ!!」
「あれ、そーだったっけか?」 
「そーだったのよ! このボケボケクラゲっ!!」
「そーかぁ……。 そーだよなぁ。やっぱ結婚はお互いが心底惚れ合ってないと♪」
「違うってばっ!! 問題はそこじゃ……!!」
「パパって、人間じゃなかったの?」


  ぎくっ!!


「「…………(汗)」」
「パパ?ママ?」
「う、そ、そりは……、ねぇ、ガウリイ!?」
「あ、う、うん。 ま〜その辺の詳しい事情はだな、エイラがもーちょっと大きくなってからとゆーことで」
「むう〜、なんかズルイ〜っ!! パパもママも、エイラだけ仲間はずれにして〜っ!!」
「いや、決してそんなつもりじゃ……、って、そんな話をしていたら!
 あそこを行くのはゼロスじゃないかっ!?」
「ほんとだ! 諸悪の根源、鬼のゼロスだわっ!」

「誰がオニですかっ!!
 純真な僕が炒り豆の世話をしてる間に、さっさと結婚して子供まで作った人に言われたくありませんよっ!
 第一、僕は“鬼”などとゆー下級魔族ではなく、れっきとした……」

「なぁリナ、豆はよーく炒ってくれたか?」
「もちろんよ、ガウリイ。もしうっかり芽が出たりしたら一大事だもの」
「よーし。それじゃ今年も、インバース家恒例、豆まき大会を始めるとするか〜!!」
「「おおーーーっっ♪♪♪」」

「へ……? あ、あの、皆さん……?(汗)」

「オニは〜そとぉ〜〜!!」


  びしっ! パラパラパラ……


「あいたっ! ……ちょっと、ナニするんですか〜っ!
 僕はこれから獣王様の大事なお使いで……!!」

「鬼はぁ〜〜外ぉ〜〜〜っ!!!」


  びしびし!! べしっ!!


「いだだだっ!! だからっ!僕は鬼じゃな……」

「魔族退散ーーっ!!」
「リナ〜っ、愛してるぞぉ〜〜〜っ!!!」
「ちょっと!恥ずかしいこと叫ばないでよっ!」
「オニは〜そとぉ〜〜!!」


  びしばしびしっ!! べしべしっ!! びちぃっ!!!


「痛い痛い痛いっっ!!
 うわ〜〜ん、獣王さまぁぁぁ〜〜〜〜っっっ!!!(涙)」







  ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆







幸せ家族のらぶらぶパワーがいっぱい詰まった豆を大量にぶつけられ、
魔族は泣きながら逃げていきました。

その様子をこっそり見ていたご近所の人たちが、幸運にあやかろうと、みな次々に真似をするようになったため、
この町では、厄除けのおまじないとして、節分の日に豆まきをする習慣がすっかり定着してしまったのだそうです。

また ── これは余談ですが ── 後にその辺りの土地では、「準備が遅い」とか「手遅れ」ということを指して、
『魔族を見て豆を炒る』と言うようにもなったとか。


……え? それは本当の話かって?


さあ、どうなんでしょう?
なにぶん、言い伝えですからね☆






  ・・・・おしまい♪♪







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