By とももんさん
心地よい朝の光を受けて、あたしはゆっくりと目を開けた。
見慣れた天井、馴染んだ部屋。すっかり当たり前になった、朝の情景。
気分良く目を覚ましたあたしは、隣で寝ている幼子を起こさないように寝返りを打って、シーツを肩までかけ直してあげる。熟睡しているのか、微動だにしない。くううぅっ!ぷりてぃ(はあと)
男の子だけど、あたしに似て可愛らしい顔立ち。金髪だけど、くるくるのくせっ毛で、色白なのもあたし似かしら? 2歳の誕生日を控えた最近では、だいぶおしゃべりも出来るようになって・・・
「たあたん(かあさん)、ちた」ま、最初はこれよね♪
「んま、ちょうたい」食欲旺盛ねぇ、まだ食べるの?
「ごぉって、いった」あはは、そうねぇ、燃えてるわねぇ。(夫婦喧嘩中よ!モンクある?!)
うん、順調にボキャブラリーも増えていってるわ、頭の中身もあたしの方の遺伝子ね。あ〜良かった。
そろそろ起きようかと、ゆっくり体を起こし始めると
「まだ寝てろよ」
あたし似の可愛い息子の向こう側で寝ている、某クラゲ氏から声がかかった。
「今日は久しぶりの休日だぞ?少しくらい、いいさ」
優しくあたしに微笑みかけると、幼子の髪を、起こさないように注意して、ゆっくり撫でる。
そうね、たまには良いかも。最近出勤時間が早くなっただれかさんのせいで、早く起きて朝食やらお弁当やら作るの大変だったんだから。今日くらいは、ゆっくりさせてもらおう。
あたしは、ガウリイに微笑み返すと、もぞもぞとお布団の中に戻った。
カーテンから柔らかな春の日差しが入ってきて、暖かくなってきた部屋。隣には愛すべき息子。親子で川の字になって、まどろむ・・・幸せ。
あー、しあわせって、きっとこーゆーのを言うのねぇ・・・良い夢、見れ・・そ・・
あたしは再び心地よい眠りの中に入り・・
ぶうぅっ
・・・はい?何?・・今の・・?
イマイチ状況を把握しきれない私の横で、突然立ち上がる幼子。って、起き抜けによく、すぐ立てるわねぇ。いやいや、そうじゃなくて、今の音は?
立ち上がった幼子は、あたしの顔を見るなり、真剣な顔をして、
「ぶって、でたよ」
は?
思わずガウリイと顔を見合わせると、ガウリイも頭に疑問符をいっぱい詰めたような顔をしていた。真ん中の、私たち二人の子供は、至ってまじめな顔をして、
「ぶって、ぶって、でてたったよ」
的確な言葉が出たことに、なにやら次第に興奮してくる息子。かわいらしいほっぺたがピンク色になって、起き抜けのくせに、その蒼い双眸は曇り一つなく・・
ってことは、さっきの音は・・!
あたしとガウリイは、もう一度顔を見合わせて
「あはははははーーー!!!」
「はっはっはっ!おまえかー、今の。くくっ、」
二人して、お腹を抱えて大爆笑!私たちを見て、つられて笑う息子。
つまり息子は、起き抜けに『おなら』をして、それを律儀に私たちに報告してくれたのだ。
食欲旺盛だもんね、コレも健康な証拠よっ!
「あー、おかしい。それにしてもどこで覚えてくるのかしら?・・ねぇ?」
息子と二人で顔を見合わせると、あたしの真似をして小首を傾げる仕草をする。んんん〜!かわいいったらないんだから!・・・ん?ちょっとマテ。
「そうよ、誰かの見本がなければいけないのよ!」
そう。子供というのは、喋りやすく、かつ、親のよく使う言葉から覚えていくモノなのである。勿論美少女天才魔道士(経産婦だけど)たる、このあたしが自分の子供の前で・・その・・そんなことするわけないし。そんな言葉も言った覚えはない。
と、いうことは・・
そのとき、あたしの視界の端にコソコソとベットから下りているだろう某氏の、金色の髪が一瞬見えた。
「犯人はそこかあぁ!!」
あたしはベットの脇に隠してあった、布団たたきを思いっきり振り下ろした。
どごおおぉぉっ!!
「うわぁっ!あ、危ねぇなあ。」
あたしの布団たたきは、ガウリイを僅かにそれて、すこぉし床を破壊した。
(ちっ、避けられたか)
「どおお、っていったお」
「そおねぇ、どおおって、いったわねぇ(はあと)」
あたし達は、見つめ合って微笑む。あああ、かわいい。
「おおい、穴空いてるぞ?いったい何で出来てるんだ、その布団たたき」
「ちょこぉっと丈夫に作ってもらっただけよ、気にしない気にしない」
あたしは、息子を左手で抱っこして、オリハルコン製布団たたきを構え直した。こんな時のために作っておいて良かった(はあと)。
「そんなことより、あんたがあたしの可愛いこの子に、変なこと教えるからでしょう!罰として、その床直すまでご飯抜きだかんね!」
ビッ!と、布団たたきをガウリイに突きつけると、隠し場所を変えるために懐にしまい込んで、踵を返した。
「お、お〜い・・リナぁ・・」
ばたん!
情けない声を出したガウリイを後に、あたしは朝食の準備のために階段を下りていったのだった。
「あ〜も〜、ガウリイったら変なこと教えるんだからっ。一体いつこんな事教えたのかしら?ねぇ?」
起きた瞬間から、お目めパッチリな息子に話しかけてみる。ほとんど独り言のようなものなのだが、母親というものは何故か子供に話しかけてしまうのである。
「たあたん、とおたん、どおお、どおおってたった」
「はいはい、そうねぇ。ちょおっと床に当たったのよ」
ちょっと、やりすぎたかしら? ま、ガウリイの分の朝食も作っておけばいいか(作らない気だったんかいっ)などと思いつつ、息子を子供用のいすに座らせて、牛乳をコップに入れて出す。
「ぶって、でてたった、よ」
どうやら先ほどの興奮が未ださめやらぬように、しゃべり続けている。かわいいけど。
「そ、そうねぇ・・・しかし、一体いつ教わったのかしら・・・ねぇ?」
ガウリイにそんな暇あったかしら? ま、いっか。
「じーたん、いく。じーたん、ばーたん、とと、ね。ぐるぐる〜ってすりゅ、いく」
「また、突然ね・・じーちゃんが魚を捕ってくるの?で?ぐるぐる〜って遊んでくれんのね・・。でも今日は、じーちゃんばーちゃんの所に行く用事はないんだけどなぁ」
朝食を作りながら、子供の話を訳しつつ返事をする。子供って、いきなり色んな所に話が飛躍すんのよね。まあ、本人の頭の中ではちゃんと繋がっているんだろうけど・・。
「じーた、いく!ね?」
ね?と、可愛く言われても・・・
「う〜ん、どーしよっかなぁ」
とか言いながら、半分は行く気になっている自分に苦笑しつつ、朝ご飯を作るための手は休ませない。
「みんなで朝ご飯を食べたら、今日はじーちゃんの所にでも遊びに行きますかっ!」
「じーた、いくー!」
すっかり息子のおねだりに負けながら、あたしのちょっと幸せな時間は続いていくのであった。
その後、じーちゃんの所に行って、あの時の息子の話が、しっかり繋がっていたこと。つまり『誰が教えたのか』を伝えていてくれたのだと言うことを、知るのであった。
ガウリイじゃなかったのね・・・ゴメンね。てへっ