<第1話>
By 籠崎星海さん
あたしの名は、リナ=インバース。
あたしと、旅の連れのガウリイ=ガブリエフは旅の途中で、パストと言う名の村に立ち寄った。
あたし達は、そこで少し早めの昼食を食べていたんだけど。
「あの〜‥‥すみません、お願いがあるんですけど‥‥」
村人‥だろうか。どこにでもいる、中年男性が話しかけてきた。
「イヤよ」
あたしは、話も聞かずに即答した。
「いえ、あの‥‥まだ何も言ってないんですが‥‥」
戸惑う村人。
でもねー。あたしは、話を聞く気なんて、これっぽっちもないのよね。
「イヤと言ったら、イヤ。帰んなさい」
思いっきり冷たーく言い放ってやると。
思わぬ所から声がかかった。
「おーい、リナ。話くらい聞いてやれよ。かわいそーじゃないか」
‥‥ったく、ガウリイの奴、相変わらず人が良いんだから。
「そんな事言うけどねえ。話聞いたら、引き受けなきゃいけなくなるに決まってんのよ!
それに、こーゆー場合、面倒な依頼が多いんだから!
あたしはヤですからね! 面倒に首をつっこむのは!」
ドン!とテーブルを叩いてやると。
それを聞いたガウリイが、ポツリとつぶやいた。
「‥‥いつだって面倒事に自分から首を突っ込んでるくせに‥‥」
‥‥‥あんですって?
「んっんっんっ‥ガウリイ? 今、何言ったのかな〜?」
ニヤリ、と笑いながら言ってやると。
あたしの出す、殺気に気付いたらしく。
「‥‥すみません。何でもないです」
と謝ってくる。分かればいーのよ、分かれば。
さて‥と、食事を再開しよーとすると。
「お願いですうっ!! うちの娘の命が掛かってるんですっ!!」
村人Aが、あたしの腕にすがりついてきた。
ああっ‥あたしが無視するからって、勝手に事情を説明すなっ!!
そんなん聞いたら、引き受けなきゃいけなくなるじゃないのっ!!
「リィナァ〜〜‥‥」
おまけに、ガウリイまでもが、おねだりモードであたしを見つめてくる。
うううっ‥‥‥
「ああっ、もう! 分かったわよ!
話を聞けばいーんでしょ、話をっ!!」
ケイネルと名乗ったその村人Aの長〜い話を要約すると‥
村の近くの山に、最近モンスターが住み着いて、色々と悪さをするらしい。
まあ、最初は畑を荒らす、といった程度だったのだが、段々とエスカレートしていって‥‥
とうとう先日、そいつが生贄を要求してきた、というのだ。
‥‥な〜んか、どこぞの正義おたくが聞いたら泣いて喜びそうなシュチュエーションねえ。
「で、その生贄にあなたの娘さんが選ばれたのね」
「ええ、そーなんです。
村人全員が集まって、『生贄にするなら、一番美しい娘がいい』と言う事で、うちの娘に白羽の矢が‥‥
お願いです、たった1人の娘なんです! 助けて下さいっ!!」
懇願する村人A‥じゃなかった、ケイネルさん。
し、しかし‥それにしても、んな理由で生贄を決めていーのか?
そりゃ、生贄の娘って言ったら、美人と相場は決まってるけどさ。
‥‥まあ、話を聞いた以上、放っては置けないし。
「分かったわ。じゃ、身代わりになってあげるから、安心して」
そう答えた途端‥なぜかケイネルさんは、ガウリイの手をヒシッ!と握りしめた。
「ああ!ありがとうございますっ!」
‥‥ちょっと待てい。
「なんでガウリイに礼を言うのよ。身代わりになるのは、あたしなのよ!?
ガウリイには、関係ないでしょーがっ!!」
ケイネルさんに、あたしが食ってかかると。
「え?‥‥だって、私が身代わりを頼んでるのは、こちらの方ですから。
あなたのよーなチンクシャのチビガキじゃ、ダメに決まって‥‥」
そこまで言って‥‥ケイネルさんは、慌てて口をつぐんだ。
どーやら、マズイ事を言った、と気付いたらしい。でも。
「ふっふっふ‥‥もー遅いわよ。
乙女を愚弄するとは、言語道断! くらえ!ボム・ディ・ウィン!!」
ブオオ〜〜ッ!!
食堂の中に、猛烈な風が吹き荒れる!
「わーっ!!」
吹っ飛ぶ、ケイネル&ガウリイ&食堂に居た人々!
「ふんっ!ざまみっ!!」
でも‥当然と言えば当然なんだけど、あたしの起こした風のせいで店内はメチャメチャになってしまい。
後であたしが、食堂の主人に怒られたのは、言うまでもないだろう。
‥‥なによっ!そりゃ、机とかイスとか吹っ飛んだけど、物的損害はなかったんだから、別にいーじゃないのっ!!
「‥‥で?あんたは、あたしじゃなく、このガウリイに身代わりを頼みたいって言うのね」
あの後、食堂を追い出されたあたし達は、仕方ないのでケイネルさんの家で話の続きを聞く事にした。
「そ‥そうなんです。お願いですから引き受けてくださいっ!
でないと、娘が、娘がっ!!」
何に怯えているのか知らないけど、ビクビクしながらも必死に訴えるケイネルさん。
ちっ‥‥しよーがないわねー。
一度、『引き受ける』って言っちゃった以上、今更イヤだ、な〜んて言えないし‥‥
ま、いーか。ガウリイなら、何があったって大丈夫だもんね。
「分かったわ。安心して。ってな訳で、ガウリイ、あんた女装しなさい」
ビシィッ!とガウリイを指さしてやると。
「えーっ!? なんでそーなるんだよ!」
案の定、文句を言い出すガウリイ。
‥‥‥やっぱし、こいつ、人の話を聞いてなかったわね。
ったく‥‥毎度毎度、説明するあたしの身にもなって欲しいもんだわ。
「い〜い。あんたは聞いてなかったみたいだけど、この人はあんたに身代わりになって欲しいのよ。
女の人の身代わりになるんなら、女の格好すんのが当たり前でしょーが。
でなきゃ、バレちゃうんだから。
それとも何? あんた、まさかあたしが引き受けた仕事‥‥断るっての?」
ゴゴゴゴゴ‥‥とあたしの後ろから効果音でも聞こえてきそーな勢いで怒ってやる。
いや、実際にガウリイにはそれが聞こえているのだろう。
「はい‥‥わかりました。やらせていただきます」
涙をだくだく流しながらも、首を縦に振ったのだから。
フン‥最初っから素直にそー言ってれば、怖い思いしなくって済んだのよっ!!
さて、ガウリイを納得させたのはいーんだけど‥‥
「問題はガウリイの着る服よねー‥」
普通の女性向けの服じゃ、合わないのよねー。
ま、当たり前だけど。
それでも、大っきな街なら、ガウリイが着れるぐらいのサイズの婦人服も手に入るんだけど‥‥
さすがにこんな小さな村じゃ、んな大きなサイズの服なんて、売ってやしないだろーし。
な〜んて思ってたら。
「あ、それなら大丈夫ですよ。
以前、宴会で使った服がありますから。
あれなら着れると思いますよ。じゃ、取って来ますね」
そう言って、ケイネルさんはどこかへ出て行き‥‥しばらくして戻った時、彼は大きな箱を手に持っていた。
箱の中に入っていたのは‥‥やたら大きなサイズの婦人服、それも、フリルヒラヒラのドレスだった。
‥‥宴会で使った服って言ってたけど‥‥
まさか、宴会の余興で女装とかしてるんだろーか、ここじゃ‥‥
‥‥‥‥ま、まあいいわ。このサイズなら、ガウリイにピッタリあいそうだし。
「さ〜て、これをガウリイに着せて‥‥あ、だったら、髪の毛セットした方がいいわよね。
それにお化粧も必要だし(はあと)」
ルンルン気分で用意し始めると。
「リナ‥‥なんか、お前さん、随分と楽しそうだな‥‥」
ガウリイがジト目で睨んでくる。
「気のせいよ、気のせい(はあと)」
「それでは、私は生贄の用意がありますので。
あ、出発するのは、今夜ですので、それまでにガウリイさんの用意をお願いしますね」
ケイネルさんは、そう言うと家を出て行った。