『生贄の山』

<第2話>

By 籠崎星海さん  

「う〜ん‥‥我ながら、いー出来よねー(はあと)」
 あたしは、すっかり準備の整ったガウリイの姿を見て、1人つぶやいた。
 長い髪を左右2つに分けて、頭の上でお団子状にし、残った部分はたらしてあるん
だけど‥‥
 その髪型が、薄いブルーのドレスとよく似合っている。
 口紅は、やっぱり赤じゃなくって、濃いめのピンクにして正解だったわねー。
 ウププ‥‥こーしてると、あの「ララァさん」の時の事を思い出すわあ。
 まあ、ほとんど同じ格好なんだから、当然なんだけど。


 こっそりと笑ってると。
「リ〜ナ〜〜‥‥」
 ガウリイがなっさけない声を上げてきた。
 あ〜らら。よっぽどこの格好がイヤなのかしら。
 目をウルウルさせちゃって‥‥ったく、諦めが悪いんだから。


「あんたも、男だったら、いー加減、諦めなさい!
これも仕事なんだから、しょーがないの!」
 怒鳴りつけてやると。
「そんな事言うけどなあ‥なあ、リナ。
要はその怪物をやっつけちまえばいーんだろう?
だったら、こんな事してないで、山に行って退治しちまおーぜ」
「やーよ。山ん中、探して歩き回るよりも、囮を使っておびき出したほうが楽なんだ
もん。
で、怪物の後をつけて、ねぐらを見つけたら、一網打尽!って訳。
そーすれば後腐れもないしね。
だから、あんたは大人しく、生贄になんなさい。分かった!?」
 ビシッ!と言い放ってやると、ガックリと首をうなだれるガウリイ。
 ふふん。やっと諦めがついたみたいね。


「それじゃま、そろそろ日も暮れる頃だし。行くわよ!」
 あたしは、渋るガウリイを引きずるようにして、家の外へと出た。
 そこには、何人かの村人達と、そして‥棺桶が置いてあった。
「なによ、これ‥‥‥」
 あたしが立ちつくしていると。
「あ、リナさん。用意出来たんですね?
ああ、思った通り、キレイですねー。
うん、これなら怪物も満足するでしょう」
 ケイネルさんが、ニコニコしながら近づいてきた。


「あの〜‥‥これ、何ですか?」
 あたしが棺桶を指さして、聞くと。
「ああ、それですか。ガウリイさんを運ぶための物ですよ。
どうせ生贄になるのですから、この方が手間がはぶけていいでしょう?」
 何が楽しいのか、相変わらずニコニコ笑いながら答えるケイネルさん。


「‥‥‥‥あんたねー‥‥‥そーゆー問題じゃないでしょーがああっ!!」
 あたしが思わず喰ってかかると。
 ケイネルさんは、一瞬キョトンとした顔をしたけど、すぐに手をポンッと打つと、
「あ、それもそーですね。大きさを合わせないと。
たぶん大丈夫だと思うんですが‥ガウリイさん、入ってみてくれますか?」
 ニ〜コニコ笑いながら、ガウリイを促す。
 ‥‥いや、そーゆー問題でもないと思うんだけど。
 ってゆーか‥‥この人、なんか性格、変わってないか?
 さっきまでとは別人なんですけど‥‥


 まあ、娘が助かる、と分かったので気が楽になって、本来の性格に戻った、って事
なんだろーけど‥‥
 この笑い方といい、話し方といい‥‥あるヤツを思い出して、すっごいヤなんです
けどっ!!
 脱力するあたしをよそに、
「おう、それもそーだな」
 いともあっさりと納得したガウリイが、棺桶に収まる。
 ‥‥‥納得すな、あんたも‥‥‥


「いやあ、ピッタリですね。よかった。お似合いですよ!」
 ニコニコニコニコ
 プチリ
「‥お前は、どこぞのすっとこ神官かあっ!!」
 ぜいぜいぜい‥‥‥
 思わずブチ切れたあたしが、大声で叫ぶと。
「おや、リナさん、よく分かりましたねー。私が神官やってるって」
 どがしゃっ!!
 は‥‥はいい!?
「いやあ、神官の服を着ていないので、普通は気が付かないんですけど、さすがです
ねリナさん‥‥って、何やってるんですか?
そんな所ではいつくばって」


 派手にズッコケているあたしを心配そうにのぞき込むケイネルさん。
 ‥‥って、あんたのせいだ、あんたの!
 そう、大声で怒鳴りつけたいのは山々だけど‥やめといた方がよさそーね。
 この調子じゃあ、言っても無駄に決まってるっ!!
 それにしても‥‥本当にこの人、疲れるっ!!
 もーいやっ!!こんな仕事、とっとと終わらせなくっちゃ!


「なんでもないです‥それより、出発しなくていーんですか?」
 もう、とっぷりと日も暮れたし。と促すと、
「ああ、そうですね。それでは出発しましょうか」
 ケイネルさんの合図で、たむろしていた村人達が、棺桶を担ぎ上げると、そのまま
山へと向かう。
 棺桶の中にはガウリイが横たわっているんだけど‥‥フタがしてあるので、その姿
を見る事は出来ない。


 松明を掲げた村人の先導の元、一行はしずしずと、まるで葬礼の列のように進んで
行く。
「あの‥どこまで行くんですか?」
 あたしは、横を歩いているケイネルさんに尋ねた。
「ああ、この先の山の中腹に、お祭りを開くための広場があるんです。
そこが目的地なんですよ」
「お祭り‥ですか」
 あたしの問いかけに、
「ええ‥年に1度、山の幸に感謝するためのお祭りが開かれるんです。
その場所をこんな事のために使うなんて、思いませんでしたねえ」
 ケイネルさんは、複雑な表情をしながら答えてくれた。


 なるほど、こーゆー山村では、その手のお祭りってのは付き物みたいなもんだけ
ど‥
 そのための場所、となれば、神聖な場所のはずよねー。
 そこを、仕方ないとはいえ、生贄を捧げるために使うなんて‥そりゃま、あんまり
いい気はしないわよね、確かに。



 それからしばらく、山の中を歩いていくと‥いきなり、視界が開けた。
 ここが問題の広場ね。
 いくつも置かれた、かがり火に照らし出されて、広場の中央に台があるのが見え
る。
 ここで祭りを開く、って言ってたし、きっと今日のために設置したんじゃなくっ
て、元からここにあるんでしょーね。
 村人達は、無言でかついで来た棺桶をその台の上に安置した。


「じゃーね、ガウリイ。
あたし達はこれで帰るけど‥がんばってね(はあと)」
 棺桶のフタを開けて、中に居るガウリイに声を掛けると。
「‥‥帰っちまうのか?
なあ、頼むからナイフ一本でいーから置いていってくれよ。
丸腰だと、どーも心細くて‥‥」
 世にも情けな〜い声をあげてくる。
 ちょうど陰になっているせいで、ガウリイの表情は伺えないんだけど‥
 この声の調子からして、やっぱり世にも情けない顔をしてるんでしょーね。


「あに言ってんのよ。
武器なんて持ってて、見つかりでもしたら、どーすんのよ。
かえって怪物の怒りを買うのがオチじゃないの。
心配しなくっても、あんたがつけてるそのイヤリング、魔法がかかってんのよ。
だから、それであんたの居場所が分かるから。
安心なさい、あんたが怪物の巣に連れ込まれたら、す〜ぐに助けてあげるからさ!」
 ハッパをかけてやると。
「‥‥なあ。そいつが、この場でオレを食べよーとしたら、そん時はどーすんだ?」
 ガウリイが聞いてきた。


 ‥‥そーいえば。そーゆー事もありえるわよねえ‥‥考えてなかった‥‥‥
「‥‥ま、まー、その時は、自分の力でなんとかしてね(はあと)
じゃ、あたしはこれで」
 言うだけ言うと、ガウリイの返事も聞かずに、棺桶のフタを閉める。と。
「こら、リナ〜〜ッ!! そりゃないだろ〜っ!?
この薄情者〜〜っ!!」
 棺桶の中から、ガウリイが叫ぶけど‥当然、ンな物は無視。


「じゃ、帰りましょーか」
 あたしは、村人達を促すと、村へと戻っていった。
 ‥‥っても、別にガウリイを見捨てたんじゃないわよ!
 近くに潜んでいて、怪物がそれに気付いたりしたらマズイでしょーが!
 だから、一旦村まで帰るのよ!
 そーすれば怪物も安心して出てくるでしょーしね!
 そのへんのトコロ、誤解しないよーに!




<<つづく>>


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