<第3話>
〜〜〜ガウリイサイド〜〜〜
By 籠崎星海さん
足音と、人の気配が段々と遠ざかって行く。
残っている者は、1人も居ない。
‥‥くっそー!リナのやつ、本気でオレを置いてきぼりにしやがったな!
しかも‥‥こ〜んな格好させやがって‥‥
何が悲しくって、こんな格好しなくちゃいけないんだよっ!!
ううっ‥‥2度と女装なんかしないと、心に誓ったのに!
リナのバッキャローッ!!
‥‥な〜んて、面と向かって言えたら苦労はしないよなー。
ハァー‥‥仕方ないか。これも、惚れた弱みってヤツだよな。
それにしても‥暗いなー。
まあ、フタがしてあるんだから、暗くて当たり前だけど、真っ暗じゃないか。
マジで自分の手も見えないぞ。
ってか、目を開けてても、閉じてても、変わらんじゃないか。
あ〜あ、一体いつまでこんな暗くて狭い所にいなきゃいけないんだ?
‥‥なんか‥段々、ハラが減ってきたし‥‥
いや、その前に‥なんか、寝ちまいそーだ。
モーレツに眠くなって来た。
なにしろ、暗くて静かなんだもんなー。
おまけに、この棺桶ときたら結構いい物らしくって‥中がフカフカで気持ちいーんだよなー。
ヒマだしなー。寝ちまおっかなー。
なんてオレが思った時。
ズシャ‥‥ズシャ‥‥
妙な音が聞こえてきた。
今の音は何だ?
人の足音じゃなかったみたいだが。
ズシャ‥‥ズシャ‥‥ズシャ‥‥
音は、段々と近づいてくる。
明らかに、人間以外の足音。
‥‥ひょっとして‥例の怪物が来たのか?
ズシャ‥‥ズシャ‥‥ズシャ‥‥
足音はさらに近づき‥ガシャン!ガシャン!という、何かが倒れる音が、あちこちで響いた。
‥‥何だ?一体、外では何が起こっているんだ?
静かになったと思ったら。
ズシャ‥‥ズシャ‥‥ズシャ‥‥
足音がさらに近づいて来て‥‥止まった。
‥‥‥‥いる。間違いなく、いる。この棺桶の横だ。
くっそう‥やっぱり、ナイフの1つも持ってくるんだった!
ホゾを噛んでいると。
カタン!
棺桶のフタが開いた。
夜空をバックに、怪物がシルエットになって見える。
どうも暗いと思ったら‥‥赤々と燃えていたはずのかがり火が消えてるのか。
そうか、さっきの音は、この怪物がかがり火を倒して、消した音だったんだな。
それにしても‥こいつ、結構デカイぞ。
‥‥どうする。素手で戦って、勝てるか?
う〜ん‥このドレスじゃあ、動きにくいしなあ。
オレがこれからどうするかを決めかねていると。
いきなり、オレの体がフワリと浮いた。
な、なんだ〜〜っ!!‥って、そうか!
オレ、こいつに抱えられてんだな!
オレを軽々と抱え上げるなんて、こいつ、かなりの力持ちだな。
‥油断しない方がいいだろう。そう思ううちに。
ズシャ‥‥ズシャ‥‥ズシャ‥‥
怪物はオレを片手で小脇に抱えたまま、歩きだした。
どーやら、今ここでオレを食う気はないらしい。
やれやれ、助かった〜〜‥‥
それから怪物は、しばらくの間、歩き続けた。
真っ暗な中を、抱えられて動いているから、どれくらいの距離歩いているのか、よく分からないんだが‥
結構な距離、歩いてんじゃないのか?
今、怪物は洞窟の中を歩いている。
この中に住んでるみたいだな。
所々でコケが光っている中を、怪物はただひたすら歩いている。
と、急に周りが明るくなった。
な、なんだ!眩しいっ!!
「さあ、ついたズラ」
急に明るくなったせいで、目がくらんでいるオレの耳に、聞いた事のない声が聞こえてきた。
え?この声は何だ?誰か、いるのか?
戸惑っていると‥オレは、そうっと地面に降ろされた。
やれやれ、久しぶりの地面だ。
やっと目も明かりになれてきて‥まわりの様子も見えるようになってきたぞ。
キョロキョロと、あたりを見回してみると。
やっぱりここは、洞窟の中だな。
それも、広くなっている所みたいだ。
あちこちに明かりが灯されていて、結構明るい。
それに‥なんだか、いろんな生活用品が置いてあるんだが‥ここに誰かが住んでるのかなー。
なんて考えてたら。
「どうズラ? 気に入ったズラか?」
いきなり、オレのすぐ横から、さっき聞こえてきた声がした。
驚いてそちらを見てみると。
そこに立っていたのは‥‥
「‥‥‥ナマズ?‥‥」
どこからどー見ても、ナマズだった。
2本足で立っているし、手らしき物もあるから‥まあ、人間っぽく見えなくもないが‥‥
あの顔とヒゲはナマズだよなあ。
‥‥まさか、今しゃべったの、こいつか?
オレがジロジロ見ていると。
「オラ、ナマズじゃないズラ。ズーマナズラよ」
ナマズがいきなりしゃべり出した。
な〜んだ、じゃやっぱりしゃべったの、こいつだったんか。
今、ズーマナって言ったな。こいつの名前かな?
「ズーマナって言うのか? お前さん」
「そうズラよ。あんたの名前はなんて言うズラ?」
ニコニコ笑いながら、答えるナマズ‥じゃなかった、ズーマナ。
いかにも人の良さそーな笑顔を浮かべている。
なんだか‥こいつ、そんなに悪いヤツには見えないんだけどなー。
こんなヤツが生贄を要求するとはねー‥‥
ま、いーか。
それより、名前だったな、名前。
‥‥‥‥って、しまったーっ!!
なんて名乗ればいーんだよ!
まさか‥本名、名乗る訳にはいかないよなー。
男だってバレちまうから‥‥
じゃ、偽名‥‥ああっ!!考えてない〜〜っ!!
まさか、怪物に名前聞かれるとは思ってなかったからなー。
どー、どーしよー‥‥
「どーしたズラ? 自分の名前、分からないズラか?」
不思議そーな顔でオレを見ている、ズーマナ。
うっ、いかん‥‥いつまでも答えないと、不審に思われちまう!
‥‥し、仕方ない‥‥この名前だけは、使いたくなかったんだが‥‥
「‥‥‥‥ララァです‥‥‥‥」
「そーか、ララァさんズラか。いー名前ズラ。
こ〜んなキレーなお嫁さんが来てくれるなんて‥オラ、嬉しいズラよ!」
なにが嬉しいのか、嬉しそーな声を出すズーマナ。
くっそう!ララァさんなんて、気安く呼ぶなよな!
ヤな事、思い出すじゃないか!
‥‥‥って、ちょっと待てよ。
今、こいつ、何て言った?確か‥‥
「‥‥‥お嫁さん?‥‥‥」
「そうズラ。お嫁さんズラよ! オラ、お嫁さん欲しかったズラ!」
ポッ‥と頬を赤く染めるズーマナ。
‥‥うえっ‥‥その顔で頬を染めるなよ、気持ち悪いだろ‥って、それどころじゃなーいっ!!
「お嫁さんだとーっ!! 生贄じゃなかったのかっ!?」
「え?オラ、そんな事言ってないズラよ。
オラはただ、『女の人が欲しい』って言っただけズラ」
‥‥なるほど‥‥で、それを聞いた村人が、生贄を要求された、と勘違いしたんだな。
でも、こいつが欲しかったのは、お嫁さんだった、と。
な〜んだ、そんな事だったのかー。
はっはっは‥‥‥って、納得してる場合じゃないだろ、オレ!
ひょっとして‥いや、ひょっとしなくっても、そのお嫁さんって、オレの事じゃないかっ!!
オレの目の前では、身の丈2mはあろうかというナマズの化け物が、頬をポッ‥と染めて、モジモジしている。
‥‥‥うっ‥‥気持ち悪い。
あんなんで、嫁さんなんて来ると思ってんのか?コイツ。
あ、そうか。来てくんないから、こんな手を使ったのか。
‥‥って、そうじゃないだろ、オレッ!!
なんとかしないと、こいつの嫁さんにされちまう〜っ!!
「ララァさ〜〜ん(はあと)」
モジモジする‥って言うより、ほとんど踊りながらズーマナがせつなそーに言う。
‥‥うっ‥い、いかん。あまりの気持ち悪さに、目眩がしてきた。
この恐怖から逃れるには‥‥そ、そうだ!
あの手があったっ!!
「フ‥‥フフフフフ‥‥悪いが、オレはお前の嫁さんにはなれん。
なぜなら、オレは‥‥男だからだっ!!」
そう言うと、バッ!!と、もろ肌を脱いで、上半身裸になって見せる。
どーだ!これなら、どこからどー見ても、男にしか見えまいっ!!
服を脱いだオレを、ズーマナはボーゼンと見ていたが。
「それでも、構わないズラ」
‥‥へ?今、なんて言った?
構わないって、言ったよーな‥‥
「男でも構わないズラ。オラのお嫁さんになって欲しいズラ〜〜っ!!」
ズーマナが叫んだ。
な‥なにーっ!嘘だろーっ!!
オレの心の叫びは無視して、ズーマナは頬を染めて、ズンズンオレに近づいてくる。
「ま‥待てってば。だからオレは男なんだって!」
「別に構わないズラよ」
「お前が構わなくっても、オレの方は構うんだ!
オレは男の嫁さんになんて、なりたくな〜〜いっ!!」
言い合っている間にも、ズーマナはどんどんオレに近づいてくる。
「‥ちょっと待て。その、突き出した口はなんだ」
「そりゃもちろん、誓いのキッスズラ。ン〜〜〜‥‥‥」
あからさまに口を突き出して、迫り来るズーマナ。
まて。こらまて!ちょっとまてーっ!!
オレはナマズとキスなんて、したくないんだーっ!!
が。オレは、ズーマナにがっちりと捕まえられてしまい、逃げる事も出来ない。
あああ‥‥リナァ〜‥‥
早いトコ、助けに来てくれえ‥‥
オレの心の叫びもむなしく。
ズーマナの顔がドアップになって、そして‥‥
ブッチュー!!!
んぬわぁぁぁ〜〜っっ!!!