<第4話>
〜〜〜リナサイド〜〜〜
By 籠崎星海さん
あたしは、ガウリイが持っているイヤリングを頼りに、ガウリイの居る場所へと急いでいた。
イヤリングが動き出してからすぐに追いかけたんだけど‥やっぱ、もっと近くで待ってるべきだったかしらねー。
一応、村までは戻らずに、途中で息を潜めてたんだけど‥それでもガウリイとの間に、随分と距離を開けられちゃってる。
まー、ガウリイの事だし、すぐにやられちゃうよーな事はないとは思うんだけど‥それでも万が一、って事もあるし。
急がなきゃね。
‥あ。ガウリイの動きが止まった。
どうやら、化け物の住処に着いたみたいね。
待っててよ、ガウリイ。今行くかんね!
洞窟を進み、化け物の住処へと踏み込んだあたしが目にした物は。
‥‥あれは‥‥ナマズ‥よね。
‥え?ウソ!ガウリイが、頭っから食べられてるじゃないの!
そ、そんな‥‥と、とにかく引き離さないとっ!!
「エルメキア・ラーンスッ!!」
あたしの放った呪文は、
「ウギャッ!!」
見事に化け物に命中した。
ガウリイを離して、地響きを立てて倒れる化け物!
「ガウリイッ!! 大丈夫っ!!」
あたしは、床にへたり込んでいるガウリイに駆け寄った。
「けがはない?」
ガウリイにそう、声を掛けると。
ガウリイは、あたしの顔を見るなり‥‥ポロポロ涙をこぼし始めた。
え!?な、何?何がどーなってんの?
どっか痛いとか?
でもガウリイが、それっくらいで泣くはずないしっ!!
慌てふためくあたしに、
「‥‥リィ〜ナァ〜〜!」
ガウリイが抱きついてきた。
そのまま、オイオイと泣き始める。
「ちょ‥ちょっと、本当にどーしたってのよ!
泣いてちゃ分かんないでしょ!?
何があったのか、言ってごらんなさいよ!」
ガウリイがこんな風に泣くのなんて、初めて見る。
一体、何があったって言うの!?
あたしが問いつめると。
ガウリイは顔中を涙でグシャグシャにしながらも、顔を上げて、あたしにこう訴えかけた。
「あ‥あいつ‥グズッ‥‥オレを嫁さんにするって‥グズッ‥言って!
‥‥オレ男だって言ってんのに‥‥それでも構わないって言って‥‥キス‥‥‥キスされたああ〜〜っ!!」
そう言い終えるなり、またオイオイ泣き出すガウリイ。
‥‥‥あー‥‥そーゆーコトか‥‥
さっき見たアレ、食べられてたんじゃなくって、キスされてたのね‥‥
ははははは‥‥心配して損した。
それにしても、こ〜んなに泣いちゃって。
‥‥‥まあ、あたしだって、ヌンサに迫られた事があっから、気持ちは分からないでもないけど‥そんなにヤだったのかしらねー。
‥‥まー、怪物、それも男にキスされたんじゃ、無理ないか。
「ハイハイ、怖かった、怖かった。よしよし」
あたしは子供にするように、ガウリイの背中をポンポン、と叩いてやる。
すると、段々ガウリイが泣きやんできた。
どーやら落ち着いてきたみたいね。
ホッ‥よかったー。
あのまんま、泣き続けたらどーしよーかと思っちゃったわ。
と、その時。
「オ‥‥オラの嫁さん‥‥‥」
声が聞こえた。ゲ。ナマズのやつ、気がついたんだ。
エルメキア・ランスまともに喰らったってのに、やけに復活が早いじゃないのっ!
図体が大きいから、効きが悪かったのかしら!?
「オ‥‥オラの嫁さん‥‥」
立つ力はないらしく、ズリズリと這いずりながらも、こちらへ近づいてくるナマズ。
こ、こら!こっちへ来るんじゃないっ!
よ〜し、こーなったら、もう1発、エルメキア・ランスを‥と思ったら、それまであたしにしがみついていたガウリイがあたしから離れて、すっくと立ち上がった。
「いいか。よーく聞け!
オレは、お前の嫁さんなんかには、絶対ならんからなっ!!」
ビシイッ!とナマズを指さして、言い放つガウリイ。
おおっ!気のせいか、少しカッコいいかも。
「そんな事言わないで‥オラの嫁さんになってくれズラ‥‥」
片や、ナマズはまだ諦めきれないらしく、情けな〜い声を出している。
「いーやっ! オレは、嫁さんになんて、ならんっ!
嫁さん、もらうんだっ!!」
「そんな事言わないで‥いー暮らし、させてあげるズラよ。
だから‥嫁さんになって欲しいズラ」
両者、一歩も譲らない。
う〜ん、これはこれでなかなかの見物よねー。
どっちが先に諦めるのかしら。
な〜んて、あたしが高見の見物を決め込んでいたら。
ガシッ!と、いきなりガウリイにとっ捕まってしまった。
え?な、なに?
何が起こったか分からずに、あたしが驚いていると。
「オレは、リナを嫁さんにもらうんだーっ!!
だから、お前の嫁さんにはならん! 分かったか!」
ヒシッ!とあたしを抱きしめて、ガウリイが声も高らかに宣言する。
ち、ちょっと待ていっ!!なんで、そーゆー話になるっ!!
ところが、間の悪い時というのはある物で。
ちょーどその時、あたし達を心配したのか、村人達が大挙して、この化け物の住処に突入してきた。
「リナさん、大丈夫ですかっ!!
‥‥‥‥‥すみません。お邪魔しました」
勢い良く入ってきたくせに、全員仲良く、回れ右して、帰っていく村人達。
お邪魔しましたって‥‥はっ!そーいえば‥‥
ガウリイってば、上半身裸だったよーなっ!!
おまけに、その格好で、あたしをギュウッ!と抱きしめてる訳で‥
ひょっとして‥いや、ひょっとしなくっても‥そーゆー事してる真っ最中だと誤解されてる!?
‥‥まー、こんな格好してるのを見れば、普通、そー思うわよねー。
‥‥‥って、そーじゃなーいっ!!
「離さんか〜いっ!! ディル・ブランド!!」
「うわーっ!!」
「どえーっズラ〜〜!!」
あたしの呪文で、ガウリイとナマズは、2人仲良く吹っ飛んだのだった。
翌朝。
事件も解決し、村を旅立とうとするあたし達を、村人達が見送りに来てくれた。
‥‥まあ、その中には、あのナマズもしっかり混じってたりするんだけど。
「‥‥な〜んでこいつが居るんだよ‥‥」
露骨にイヤーな顔をするガウリイ。
いや、だってねえ。
「それがねー。
話してみたら、そんなに悪いヤツじゃないのが分かっちゃってさ。
悪さしてたのも、嫁さんを欲しがったのも、1人ぼっちで寂しかったから、らしい
し。
だから、もう悪さはしない事を条件に、村で暮らす事を許したのよ。
あ、大丈夫よ。
あんたを嫁さんにする件は、ちゃ〜んと諦めさせたから」
ピラピラと手を振りながら、説明してやると。
「‥‥んな事、勝手に決めんなよ‥‥」
顔をしかめるガウリイ。
あーあ、あんな顔しちゃって。
よっぽどあのナマズがキライなのねー。
無理ないけど。
「だ〜って。説明しようにも、あんた、ずっとノビてたじゃないの」
そーなのよねー。
さすがのガウリイも、上半身裸で呪文を受けたのが効いたのか、結局朝まで目を覚まさなかったのよねー。
いやあ、次からは気をつけなくっちゃ。
「ホラ、それより、行くわよ!」
何が気に食わないのか、ま〜だ口の中でブツブツ言っているガウリイをうながして、あたしは歩き始めた。
「どうもすまなかったズラ〜〜!」
「ありがとうございました!
リナさん、ガウリイさん、またこの村に来てくださいね!」
ナマズもケイネルさんも、そう言ってくれたけど。
「だ〜れがこんな村‥‥2度と来るか‥‥」
ガウリイがポツリ、とつぶやいた。
ありゃりゃ。こりゃ、ダメだ。
この村には、もう来れないわねー。
そー言えば、気のせいかもしんないけど、ガウリイったら顔色も悪いみたいだし、朝食もいつもより食べっぷりが悪かったし。
そんっなに、ナマズに無理矢理キスされたのがヤだったのかしら‥‥って、ヤか、やっぱり(笑)
この調子だと、夕べのドサクサまぎれのあのセリフを問いただすのは無理みたいねー。
あの、『オレはリナを嫁さんにもらうんだ』宣言が本気なのか、気になってしよーがないんだけど‥‥
ま、ガウリイの事だから、2〜3日もすればイヤな事も忘れるだろーし。
それからゆっくり聞きだせばいっか。
こうして、あたし達は色んな事があったパスト村を後にしたのだった。
2〜3日して。あたしがガウリイに、あの時の事を聞いてみた所。
「‥‥そんな事、言ったっけ?」
と、ガウリイにお約束のボケをかまされ。
思わず彼を呪文で吹っ飛ばしたのは‥‥言うまでもないだろう。
ガウリイのヤツ‥イヤな事と一緒に、覚えてて欲しい事も忘れたわねっ!!
全く、クラゲなんだからっ!!
ううっ‥‥こんな事なら、あの時に、無理しても聞き出しとくんだった〜〜っ!!