『偽りの花嫁』

<第1話>

By 籠崎星海さん 


 あたし達は、夜の森を走っていた。
「‥‥ったくっ! しつっこいんだからっ!!」
「おい、リナ。どーするんだ?
相手は二人いるみたいなんだが」

 あたしの名はリナ=インバース。
 そして、あたしと一緒に走っているのは、あたしの旅の連れ、ガウリイ=ガブリエ フ。
 どーしてあたし達が、こーして夜の森を走っているのか、と言うと。
 実は。‥‥数日前にあたしがやった盗賊いぢめが原因だったりすんのよねー。

 あの日。見つけた盗賊団を潰して、見事にお宝をゲットした‥までは、まーよかっ たんだけど。
 どーやら、この盗賊団の生き残りが居たらしーのよねー。
 そりゃもう、次から次へと襲ってくんのよ。
 もちろん、み〜んな返り討ちにしてやったんだけどさ。
 手強いのが二人‥‥残っちゃってさー。

 どーやら、この二人。
 アサッシンの技術を持ってる‥と言うか。
 アサッシンとして活動していたらしくって。
 気配を完全に殺して、あたし達を追ってくるので、さすがのガウリイにもこいつら の正確な居場所が掴めずにいるのよねー。
 おまけに‥こいつらときたら、諦めが悪い性格してるらしくって‥‥
 しつっこく、しつっこ〜く、あたし達を追ってきてんのよ。
 うっとーしいったら、ありゃしない。

 しかも、こいつら。
 アサッシンらしく、夜中に襲撃してきたりとかすんのよね。
 おかげで、ここ数日、あたし達はまともに眠っていない。
 何しろ、寝よーとすると、襲ってくんのよ?
 これで眠れる訳がない。
 おまけに、おまけに‥‥食事中にも襲ってくんのよ?
 おかげで、まともに食事も出来やしないっ!!
 ばっきゃろーっ!! 食事中に襲ってくんなーっ!!
 食事くらい、させろーっ!!
 ぜー、ぜー、ぜー‥‥‥

 あー‥‥いかん、いかん。
 つい、ストレスが溜まっちゃって‥
 え? だったら、とっととやっつければいーんじゃないか、って?
 そんな事が出来るくらいなら、とっくの昔にしてるわよっ!!
 ぱっ!と現れたかと思うと、さっ!と攻撃して、ささっ!と隠れちゃうのよ、あい つら!
 ヒット&アウェイ、って言うの?
 おかげで、こっちからの攻撃なんて、全っ然出来ないのよ。
 ‥‥まあ、そんな訳で、あたし達は疲労困憊していた。
 このままで行くと‥あいつらの攻撃を避けらんなくなるのも、時間の問題よね。

 どーしよう。
 居場所が分かんない以上、こっちから攻める事はできないし。
 むこーから現れんのは‥いつでも、こっちのスキをつく形で。
 罠を仕掛けてみても、引っかかってくんないし。
 無差別広範囲魔法で、辺り一帯、吹っ飛ばしてやろーかとも思ったんだけど。
「頼むから、それだけはやめてくれ!」
 ってガウリイに泣いて止められちゃったし。
 ああ、本当にどーしよう。

 あたし達が、どーしようもない‥袋小路へと追い込まれつつある、ってのは、ガウ リイにも分かるらしくって‥
 ガウリイは、ここんトコ、ずっと厳しい表情をしている。
 ‥‥‥こーなったら‥‥最後の手段しかないか。
 手が打てるうちに、打っとかないと、ホントにどーしよーもなくなるからね。

「ガウリイ、よく聞いて。
あたし達、二手に分かれましょう」
 あたしの言葉に、ガウリイは驚いたよーな顔をした。
 まー、無理もないわね。
 今の状況で二手に分かれたって、ガウリイの方はともかく‥あたしが不利になるだ けだもんね。
 と言うのも‥ここ数日、まともに寝ていないせいで、あたしは集中力が落ちちゃっ て‥
 強力な魔法が使えなくなっちゃってんのよ。
 まー、弱っちい魔法なら、なんとかなるんだけど‥それだけじゃ、腕のたつアサッ シンを倒すには‥どー考えても力不足だ。

 だから。
「な‥‥何を言い出すんだ、リナ!
そんな事をしたら、お前がっ!!」
 ガウリイが、そー言って心配すんのも当然なのよね。でも。
「大丈夫よ、ガウリイ。
あたしは、あんなやつらにやられたりしないわ。
だから‥ガウリイ、あんたは左に行ってちょうだい。
あたしは、右に行くから」
 じっとガウリイの目を見ながら、言ってやる。
「でも‥‥リナッ!!」
 ガウリイは、それでもあたしを止めようとした。

 ガウリイ‥あんたの気持ちはよく分かるわ。
 逆の立場だったら、あたしだって心配しただろうから。
 でも、でもね。今、動かないと‥あたし達、どーしよーもなくなっちゃうのよ。
 だから。あたしは、行くわ。一人で。
「いい、ガウリイ! この近くの町で、待ってるわ。
だから、ちゃんと合流すんのよ!」
 あたしは、そう言うと、ガウリイの返事も待たずに、右へと走りだした。
 ガウリイを置いて‥‥

「リナッ! 待ってろ!
すぐに追いつくから! 無理すんじゃないぞっ!!」
 後ろからガウリイの声が聞こえてきたけど‥‥
 あたしは、返事もしないで走り続けた。
 でないと、泣いてしまいそうだったから‥‥


 案の定、あたしがガウリイと離れてしばらくすると、敵は襲ってきた。
 ずっと、あたし達の後をつけてきて‥チャンスだと思ったんだろう。
 魔法もロクに使えない小娘なら、簡単に倒せると思ったんでしょーね。
 でも‥そうはいかないわっ!!
 あたしが、何のためにガウリイと別れたと思ってんのよ!
 今なら‥ガウリイを巻き込む心配はいらない。
 目一杯、やってやる!!

 あたしは、敵が来るのを予想して唱えておいた魔法を解き放った!
「ファイアー・ボールッ!!」
 力ある言葉を言った途端、かざしたあたしの手から、光球が飛びだして‥‥
 襲ってくる敵目掛けて、飛んで行く!
 チュドーンッ!!
 手加減一切なしの火炎球が敵に当たって、炸裂する!
「ぐああっ!!」
 敵は、一瞬にして炎に包まれて‥‥
 ドサッ‥‥
 と、その場に倒れ伏した。

「ううっ‥」
 あたしの手加減なしの火炎球を喰らったにも関わらず、男は生きていた。
 ‥やっぱり、威力が落ちてるわねー。
 あたしの魔力が万全なら、消し炭になっているハズだもの。
 それでも、あたしの目の前の男は、全身にひどい火傷をおって、うめいている。
 とどめを刺す必要は‥ないわよね。
 あたしの後を追ってこれるような傷ではないんだから。
 フン! このリナ=インバース様を甘く見るから、そーゆー目に遭うのよ!
 あたしの魔法の威力が落ちているおかげで、周りの森が火事になるような事もな かったし。
 まあ、これでよかったと言う事にしておこう。
 さあ、それじゃあ、近くの町まで行くとしますか。
 あたしは、疲れた足を引きずって、町があると思われる方向へと歩き出した。



<<つづく>>



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