『偽りの花嫁』
<第6話>
〜〜〜リナサイド〜〜〜

By 籠崎星海さん     



 あたしが気が付いたのは、どこかの家のベッドの上だった。
「ここは?‥‥」
 状況が分からずに戸惑うあたしに、
「リナッ!! 気が付いたのか!」
 ガウリイの声が聞こえて来た。
 声のした方をあたしが見るより前に、ガウリイはいきなりあたしに抱きついてき た。
「ちょっ!! 何すんのよっ!!」
「バカヤロウ! 何でオレが居ないのに、依頼なんて受けるんだよ!
1人でヴァンパイア退治になんか行きやがって‥‥
お前さん、もう少しでヴァンパイアにされちまう所だったんだぞ!?
お前、もう少し自分を大事にしろよっ!
お前さんにもしもの事があったら‥オレ、オレッ!!」
 ガウリイは、あたしをギュッと抱き締めて‥離そうとはしなかった。

 あたしは、ガウリイの身体が小刻みに震えている事に、気が付いた。
 ガウリイ‥何震えているの?
 ‥‥ううん、違う。ガウリイ、泣いているんだ‥‥
 ガウリイは、涙で濡れた顔で、あたしをジッと見つめてくる。
 その目を見たあたしの心臓がドキリ!と跳ねた。
 ガウリイ‥‥なんて真剣な目をしているんだろう‥

「なあリナ。頼むから、もう無茶はしないでくれよ。
依頼を受けるんなら、オレの居る時にしてくれ。
でないと‥オレは、お前を守る事が出来ないんだ。
そりゃ、今回はなんとか間に合った。
けど‥もし、間に合わなかったら‥どうなってたと思うんだ?
お前さん、ヴァンパイアになってたんだぞ。
もし、そうなってたら‥オレはお前を倒さなきゃいけなかったんだ。
お前を止めるのは、オレの役目だからな。
でも。オレは、出来ればそんな事はしたくないんだ。
だから‥頼む。もう無茶はしないでくれ。な?」

 ガウリイの話を聞いて、あたしは絶句した。
 そうだ。もし、あの時ガウリイが間に合わなかったら。
 あたし、ヴァンパイアになっちゃってた。
 そーなったら‥あたしは、ガウリイに倒されていただろう。
 あたしは‥それでも、構わない。
 ガウリイに殺されるんなら、本望だから。
 でも、そーなったら。
 ガウリイは‥あたしを殺した事で苦しむだろう。
 あたしを守れなかった事で、後悔するだろう。
 あたし‥もうちょっとで、ガウリイに生涯消えない重荷を背負わせちゃうところ だったんだ‥‥

「ごめん、ガウリイ。もうしないから‥‥」
 あたしは、やっとの思いでそう呟いた。
 その途端に、もう1度ガウリイにギュッと抱き締められてしまった。
「よかった‥‥お前さんが無事で、よかった‥‥」
 あたしを抱き締めたまま、泣き続けるガウリイを、あたしはそっと抱き返したの だった。


 3日後、あたしはやっと外へ出る事が出来た。
 と言うのも‥あれ以来、ガウリイがやたらと過保護になっちゃって、
「完全によくなるまでは、外に出さないからな!」
 と言って聞かなかったのだ。
 ‥‥まあ、あたしの方にも、もーちょっとでバンパイアの餌食になる所だった、っ ていう負い目があるせいで、あんまり強くも出られずに。
 結局は、医者のOKが出るまで、大人しくしていたんだけど‥‥
 その間に聞いた、ガウリイがあたしを連れて帰った時の様子を聞いて、あたしは驚 いたわよ。

 なんでも、あたしが担ぎ込まれた時には、治療が間に合うかどうか、ギリギリの所 だったらしい。
 でも、運がいい事に、そこにはバンパイア化の治療の専門家がいて。
 おかげで、あたしの治療はギリギリで間に合って。
 あたしは、ヴァンパイアにならずに済んだ、って訳なのよ。
 あたし、本当にもう少しでヴァンパイアになっちゃう所だったのねー。
 これじゃ、ガウリイが過保護になるのも、無理はないわ。

「そー言えば、ガウリイ。ヴァンパイアはどーしたのよ」
「うん?‥‥ああ、やつなら、痛い目に遭わせといたから、もう2度と人間を襲うよ うな事はないぞ」
 ‥‥って、ちょっと待ってよ。
 それ、どーやったってのよっ!!
 ‥‥って聞いても、ガウリイの事だから忘れてるわよねえ、きっと。
 ‥‥まーいーわ。
 実際、ヴァンパイアの襲撃はピタリとやんだんだから。
 それよりも、問題なのは、あの評議長よっ!
 あんのクソおやじっ!!
 あいつがあたしに痺れ薬なんか盛らなきゃ、あたしはあんな目に遭わずにすんだの よっ!
 ってか‥最初っからあたしを生贄にするつもりで依頼をするなんて‥許せんっ!!

 どーせ、旅の魔道士なら行方不明になっちゃっても、ごまかせるし、後腐れもな い‥なーんて考えたんだろーけどっ!!
 締め上げて、ギュッと言わせてやらなきゃ、気が済まないわっ!!
「いい、ガウリイ! 止めんじゃないわよ!
あいつだけは、絶対に許せないんだからっ!!」
 激しい調子で、後ろから付いてきているガウリイに言ってやると。
「ああ、好きにするがいいさ。止めやしないから。
オレが居る所でなら、どんな無茶してもいーからな、リナ。
お前さんは、オレが守るから」
 サラリとガウリイは答えた。

 あのー‥何でもいーけど、ガウリイ‥性格、変わっちゃってない?
 う〜にゅ、な〜んか今すぐガウリイを魔法で吹っ飛ばして、今度の事件の事をキレ イさっぱり忘れさせたほーが良い気がヒシヒシとするんですけど‥‥
 まあ、心配掛けちゃったあたしも悪いんだし‥それに、ガウリイの頭なら放ってお いてもすぐに忘れるだろーし。
 うん、今回だけは見逃してあげよう。
 2〜3日しても、忘れないよーなら、その時は吹っ飛ばしてやればいーんだしね。
「よっしゃ、行くわよ! ガウリイ!」
 あたしはガウリイを引き連れて、魔道士協会へと急いだ。

 協会へ入ると、あたしは受付も通さずに、直接評議長室へと向かった。
 評議長は、あたしの顔を見ると、一瞬バツの悪そーな顔をしたものの、務めて冷静 を装って、
「こ、これはリナ君。よくヴァンパイアを退治してくれたな。
今すぐ、残りの金を渡すから‥‥」
 とか言い出した。
 さては‥金を渡して、ごまかす気ね!
 冗談じゃないわ! ごまかされてなるものですか!

「評議長。あたしに痺れ薬を飲ませましたね?」
 ジリジリと評議長に詰め寄ってやる。
「な‥何の話をしてるんだね。私には、何の事やら‥」
 あわてて言い訳する評議長。
 あんたねえ。そんな言い訳通ると思ってんの!
 ドンッ!とあたしは机を1つ叩いてやる。
「評議長! あなたは、あたしをヴァンパイアの生贄にするために、お茶に痺れ薬を 盛って、あたしに飲ませたのよ!
おかげであたしはもー少しでヴァンパイアになる所だったんですからね!
大体ねえ! あんた、最初っからあたしを生贄にするつもりで雇ったんでしょーがっ !
ネタはあがってんのよ! キリキリ白状しなさいっ!!」
 ドンッ!ともう1度、机を叩いて、詰め寄ってやる。

「だ‥だから、何の話だか分からんとさっきから言って‥‥う、うわあああっ!!」
 言い訳しかけた評議長が話の途中で急に叫び声を上げ始めた。
 真っ青になって、ガタガタ震えている彼の、その視線はあたしを通り越して、あた しの後ろを見ている。
 と同時に、あたしの後ろから、冷たい‥‥‥氷のような‥ううん、もっと冷たい殺 気が吹き出して来た。
 その殺気は、あたしの目の前にいる評議長に向けられている。
 なに、この殺気は‥とてもではないけど、人間に出せるものじゃないわ‥
 まさか‥魔族!?
 あたしが慌てて後ろを振り返ってみると。
 そこには、ガウリイが立っているだけだった。
「ん? なんだ、リナ。何か用か?」
 ガウリイは、いきなり振り返ったあたしに、ニッコリと笑ってみせた。
 なんだ、なにも居ないじゃないの。
 それに、さっき感じた殺気も消えているし。
 ‥‥‥気のせいだったかな?
 うん、きっとそうよね。
 もし、魔族が現れたんなら、ガウリイが何か言うはずだし。

 あたしが評議長の方に向き直った頃には、彼はまだ青い顔はしていたものの、もう 落ち着いているようだった。
 これなら、話が出来そうね。
 そう判断したあたしは、ドンッ!!ともう1度目の前の机を叩くと、
「あのね。このリナ=インバース様をここまでコケにしておいて、そ〜んな陳腐な いーわけ、通るとでも思っているんですか!」
 と言ってやった。
 それを聞いた途端に、評議長の顔色は、青を通り越して、土気色になった。

「リ‥‥リナ=インバース‥‥君が?
あの、ドラマタ・リナ‥‥す、すまんっ!
お金なら、いくらでも払う!
だから‥命だけは‥命だけは、お助けをーっ!!」
 平謝りに謝る評議長。
 どーやら、あたしの噂を聞いた事があるらしい。

 ‥‥どんな噂きーてんのか、知らないけど‥いやまあ、大体想像はつくけど‥
 そこまでせんでも、誰も命まで取るとは言わないわよ。
 でもまあ、せっかくああ言ってくれてるんだし。
 出せるだけの物は出してもらいましょーか。
「それじゃあ、口止め料と慰謝料も含めまして‥‥」
 あたしは、早速金額の交渉に入った。

 たんまりと金貨の入った袋を持って、あたしは上機嫌で協会を後にした。
 んっふっふ‥いやあ、金貨500枚もくれるなんて、あの評議長、思ったより太っ ぱらだったわよねえ♪
『ああ〜‥‥私のへそくりが〜〜』
 な〜んて言って、涙をだくだく流してたけど‥たったの金貨500枚で地位と名誉が守れるんなら、安いもんよね!
「さあ、んじゃ懐も潤った事だし!
こんな町に長居は無用よ!
次の町へ向けて、出発するわよ、ガウリイ!」
「おうっ! そうこなくっちゃ!」

 こーして事件も無事に解決し。
 あたしは、いつものごとく、ガウリイを引き連れて旅立ったのだった。
 ‥‥まあ、3日たってもガウリイの過保護が治らないので、思わずディル・ブラン ドで立て続けに吹っ飛ばしてやったのは‥
 しょうがないわよねえ、うん。




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