By 籠崎星海さん
オレは、森の中を走っていた。
リナの居る場所を目指して。
‥‥‥嫌な予感が頭から離れない。
頼むから、無事でいてくれよ、リナ!
目的の場所に着いたオレの目に飛び込んで来たのは、リナと‥
リナの首筋に顔をうずめている、ヴァンパイアの姿だった。
くっそう!遅かったのか!?
素早くリナに近づくと、ヴァンパイアはリナの首筋から顔を上げてオレを見据え た。
その隙に、リナを引っ張ってオレの腕の中に取り戻す。
「リナ! 大丈夫か、リナ!」
だが、すぐ耳元で叫んでいるにも関わらず、リナは反応を示してくれない。
ボ〜‥‥として‥まるで夢でも見ているかのような表情で‥‥
オレの腕の中に居る事も、オレが話しかけている事にも気付いていない。
「キサマ‥‥リナに何をしたっ!!」
おれは、少し離れた所にいるヴァンパイアを睨み付けた。
すると‥ヴァンパイアは不敵にニヤリ、と笑った。
「フン、知れた事。我が花嫁にしようとしたまでだ。
まあ、もうすぐそうなるがな」
な! なんだって!?
そう言われて見れば‥‥リナの首筋‥さっきヴァンパイアが顔をうずめていた場所 に、2つの小さな穴が開いているのが見える。
まさか‥リナはヴァンパイアに血を吸われちまったのか!
だとすると‥急いで手当しないと、リナがヴァンパイアになっちまう!
早くしないと! 手遅れにならないうちに!!
とは言え‥オレの目の前に居るヴァンパイアが、オレとリナを黙って行かせてくれ るとも思えん。
こいつを‥倒すしかないな‥‥
待ってろ、リナ。
すぐ済むからな。
オレは、リナをそっと地面に横たえると、ヴァンパイア目掛けて飛びかかって行っ た!
剣を抜くと、ヤツに斬りかかる!
シュイーン‥‥
しかし、ヴァンパイアは素早く後ろに飛び退いてオレの攻撃をよけてしまった。そ して。
「フレア・アロー!!」
呪文を唱えてきやがった!
ちいっ! 呪文が使えるのか、こいつっ!!
いくつもの炎の矢が出現し、オレ目掛けて飛びくる! だが!
シャキキキキィ‥‥ンッ!!
オレは、その全てを剣で切り落とす。
まさか、全ての炎の矢をオレに切り落とされるとは思ってもみなかったらしく‥ ヴァンパイアに、わずかだが隙が生じた!
よし、今だっ!!
だっ!!
オレは思いっきり踏み込んで、ヤツの懐に入り込むと、剣で薙いだ。
シュバッ!!
手応えはあった! ‥‥が、浅いかっ!!
やつは、ト、トンッ!と後ろに下がると、フワァッ‥と空に浮かんだ。
こいつ!! 空が飛べるのか!
だが、ここは森の中だ。
いくらここいらが少し開けた場所だからと言っても、上空にはあちらこちらから木 の枝が伸びてきている。
たとえヴァンパイアといえども、自由に飛び回れはしない!
ここなら、飛べるやつが相手でも、さして問題にはならんだろう。
オレはそう判断すると、宙に浮かんでいるヴァンパイアに、手近にあった石を投げ つけた。
ヤツは、それをいとも簡単によけやがった。
が。そんなのは、計算済みだっ!!
オレは、ヤツが動いた方にある木に駆け寄ると。
ダンッ!!
木の幹を足がかりにして、ヤツ目掛けて飛び上がるっ!!
「なにっ!!」
驚くヤツに、大上段から斬りかかるっ!!
スバッ!!
ヤツの右腕を肩から切り落とす!
ちいっ! 今の攻撃でまっぷたつにしてやろうと思っていたのに‥
よけられたかっ!!
だが。今ので、かなりのダメージを与えられたハズだっ!!
「キサマッ! 許さんぞっ!!」
人間ごときにやられたのがよほど悔しいのか、血の滴る肩を左手で押さえながら、 ヴァンパイアが吼える。
‥‥フン、それはこっちの言う台詞だっ!!
リナをあんな目に遭わせやがって!
キサマの方こそ、絶対に許さんからな!
オレ達は、しばらくの間、にらみあっていた。
絶対に許す事の出来ない、相手と。やがて。
「ガアッ!!」
ヴァンパイアが、残った左手を一閃させる。
嫌な予感が背中を走り‥オレは、咄嗟に後ろに飛んで、それをよけた。と。
ジャッ!
と言う音と共に、ついさっきまでオレが立っていた場所が、切り裂かれた!
なっ! なんだっ!?
‥‥‥ひょっとして‥衝撃波か何かか?
‥いや、何でもいい。
とにかく、あいつを喰らったらタダでは済まない‥
いや、おそらくオレはただの肉片になり果てるだろう、と言う事さえ分かれば、十 分だ。
「ガアッ!!」
もう1度、やつが左手を振る!
ちいっ!!
オレは、今度は前へ飛んで、ヤツの攻撃をよける!
そのまま、やつの真下に入り込むと‥思いっきりジャンプして、やつの足首を掴ん だ。
「なっ!!」
まさか、飛びつかれるなんて思っていなかったらしく(そりゃそーだろう。普通の 人間に飛びつける高さじゃなかったからな)フイをつかれたヤツを、そのまま地面 に‥叩き付ける!
「グアッ!!」
大きな悲鳴を上げるヴァンパイア!
だが‥大したダメージは受けていないはずだ。
それでも‥すぐには動けまいっ!!
オレは、剣をやつの心臓目掛けて突き立てた!
ドズッ!!
だが‥‥剣は空しく地面に突き立ったのみ。
ちいっ、横に転がって逃げやがった。
そのままやつは、
「フレア・アロー!」
もう1度、呪文を唱える!
まずい‥距離が近すぎる!
オレはあわてて飛び来る炎の矢を剣を盾にして防いだが‥いくつかは防ぎきれず に、オレをかすめて行く!
さすがに手強いな、こいつ‥‥
「死ねえ!」
炎の矢の後を追うようにして、ヴァンパイアがオレに飛びかかってきた!
オレの隙をつこうとしたんだろうが‥甘いな!
それしきの事で、オレの隙をつけると思うなっ!!
オレは、ヴァンパイアの動きに驚いたかのように見せかけて、わざと剣を動かすの を一瞬遅らせ‥‥
隙あり、と見てとって踏み込んで来たヴァンパイアの懐に、逆に潜り込んでやる。
オレの目の前で、ヤツの目が驚きで大きく見開かれるのが分かる。
喧嘩を売った相手が悪かったな!
キサマは、手を出してはならん相手に手を出しちまったんだよっ!!
「はああっ!!」
オレは剣を思いっきり振り切って、ヤツを逆袈裟にきりさいた!
「グアアッ!!」
左腰から右肩にかけて切り裂かれ‥身体を2つに分断されたヴァンパイアが、地面 に転がって血を振りまきながら、もがき苦しむ!
普通なら致命傷なんだが‥こいつはヴァンパイアだ。
これぐらいの傷なら、すぐに復活しちまうだろう。
‥動けないようにしておくか。
オレは、ツカツカとヴァンパイアに近寄ると。
「や‥やめろっ!!」
剣を振りかぶり、喚いているヴァンパイアの首を、切り落とした。
そのまま、髪を掴んで、首を持ち上げる。
「キ‥キサマ! こんな事をして、タダで済むと思うのかっ!!」
首だけになってもなお、喚き続けるヴァンパイア。
‥‥こんなになっても、しゃべれるとはな。
なかなかに器用なヤツだな。
ヴァンパイアは、うらめしそうな顔でオレを睨み付けている。
‥‥後々の事を考えたら、トドメをさした方がいいんだろうが‥今のオレにはその 手段がない。
仕方ない。しばらく足止めするだけで、満足するか。
オレは、手近な所に生えていた木にするすると登ると、そのてっぺんの枝にヴァン パイアの首を突き刺してやった。
「な‥‥何をするっ!!」
「なあに‥‥ここなら、さぞかし朝日がよく当たるだろうと思ってな‥‥」
ニヤリ、と笑ってそう言ってやると‥‥
ヴァンパイアは、まともに顔色を変えた。
「キ‥キサマ‥こんな事をしおってっ!!
覚えておけ、この借りは必ず返すからな!」
負け惜しみなのか、それとも本気なのか‥ヴァンパイアが喚く。
‥‥どちらにしても‥そんな気は起こさないようにしてやるよ。
今すぐに、な‥‥
「面白い。やれるものならやってみろ‥
今度合ったら、その時は‥‥分かっているな‥‥」
殺気を全開にじて‥氷のような気と共に、ヤツにたたき込んでやると。
ヴァンパイアの顔が、恐怖に歪んだ。
フ‥‥これでいい。
これだけ脅しておけば、オレ達はもちろん、人間ももう2度と襲おうとはしないだ ろう。
オレは急いで木を降りると、リナの元へと駆け寄った。
「リナ! しっかりしろ!」
リナを抱き上げる。が、リナはぐったりしてしまって、全く反応してくれない。
これは‥マズイぞ、急がないとっ!!
オレは本能的にそう悟ると、リナを抱えて全速力で走り出した。
待ってろ、リナ。
すぐに手当してやるからな。
だから‥ヴァンパイアになんか、なるんじゃないぞっ!!