チョコフォンデュ

『チョコフォンデュ』

 今日はオンナノコにとって、大事な勝負の日。
 密かにチョコ集積場になっているらしいあの男、正当法じゃ脇役女キャラ達とひとくくりにされちゃう可能性大。
 かと言って、こっちから告白付きなんて、照れくさくてぶん殴っちゃいそうだし。
 第一、あっちに1ポイント進呈みたいでシャクじゃない。
 ここは一つ、料理上手なリナちゃんのスキルをフルに使って、アピールしちゃろじゃないの。
 
 あたし自身のドレスアップも含め、カンペキに用意したセット一式を持参して、あいつの部屋に押し掛ける。
「おう、リナ。急にどうした?」
 すっとぼけてンのか、ホントに忘れてるのか、いつものごとく飄々と迎えるはガウリイ。
「美味しいモノご馳走してあげようと思ったのよ」
「リナがか? 珍しいなぁ」
「いらないなら持って帰るけど?」
 いい女には無反応でも、『美味しいモノ』にこいつが反応しないワケがない。
 予定通り引き留められて、予定通りセッティング。
 テーブル一杯に広げた色とりどりのフルーツに、トドメはあたしのお手製スポンジケーキ。
「ほら、この鍋にチョコを溶かすでしょ。で、食べたいモノをフォークで刺して、この中に絡ませて――」
 実演してやると、大男のくせに子供みたいに喜ぶ。
「へー、面白いモンだなぁ。なんでもいいのか?」
「バナナの皮は剥きなさいね」
 早速試し始めながら、ガウリイが笑いかけてくる。
「ほら、リナも食えよ。美味いぞ♪」
「へ?」
 ちょっと待て。
 これは一応……その、バレンタインのチョコなんだけど。
 送った本人が相伴するなんて、聞いたことがないって。
「一緒に食おうぜ。そのつもりでこんなに沢山持ってきたんだろ?」
「いや、そーいうワケじゃ……」
「何エンリョしてんだ? らしくない。
 チョコ好きだろ?」
「…好きよ」
 気の回しすぎとわかっていても、どーも日が日だけに、この単語を口にするのがはばかられちゃうぞ。
「オレ一人で食ったってつまんないじゃないか。
 リナと食うのが楽しいんだから」
 ホントにずいぶん楽しそうだね。
「――――わかったわよ。後から割り当てが減ったなんて言わないでよ?」
「おう♪」

 多少予定が狂ったけど、ま、いっか。
 とりあえず、当初の目的は果たしたコトだし。
 最近じゃ自分用にチョコ用意するってのも、けっこー流行ってるっていうし。
 
 結局その日いっぱい、ガウリイは完全にあたしとのパーティに埋没した。
 ……これって、独占ってヤツ?
 お腹も一杯、一緒の時間も一杯、手応えも十分、えらい美味しいバレンタインになったようである。
 
 送り届けられた別れ際――。
 我が家の門を開こうと背中を向けたあたしに、さりげない調子の言葉が届いてきた。
「来月はオレのオゴリで、美味いモン食おうな」
 ―――は?
 急いで振り返ると、ガウリイはもう帰り道を歩き始めていた。
「ちょっと、ガウリイ!?」
 歩みを止めずに振り返った顔には、極上の笑み。
 そのまま軽く手を上げて――次第に遠く闇に溶けて行く。
 
 
 ――もしもし?
 
 深読みしちゃうぞ?
 
 後から誤解だなんて言っても――知らないんだから……ね?



<<おしまい>>



いんでっくすへ