By らぐぢすさん
「最悪・・・」 と、俺の目の前にいる栗色の髪の彼女は呟いた。 面白く無さそうに、イヤ不快感100%の顔で流れ行く景色を睨みながら。 俺は苦笑いしつつリナを見つめた。 電車のドアに寄りかかるリナ。 俺はそのリナの身体の左右に両手をついて結構必死だった。 「大体、アンタの家!」 「うん?」 「遠いのよ!!」 満員電車の中、周りなどお構いなしに声を上げるリナ。 一瞬この車両の乗客がこちらに顔を向ける。 しかしソレもほんの僅かな間だけ。 また視線を元に戻す乗客達。 そして、聞こえるアナウンス。 緩やかに電車は駅へと滑り込む。 むせ返るほど人で一杯だった車内が少しだけ軽くなるのもつかの間であっと言う間に元通り満員御礼。 少しでもリナに負担がかからないように支えているつもりでも既にリナの頬は俺の胸に当たっている。 まるで抱きしめてるみたいだな・・・ などと思う。 「ちょっと、このクソ暑くてぎゅーぎゅ詰めの電車に乗りながら嬉しそうに笑わないでよ!」 それだけでムカツク。最悪! と言葉に出すリナ。 細い腕が、俺のシャツを掴む。 このまま抱きしめたい思いだが・・・ここで身体を支える腕から力を抜けば本当にリナを押しつぶしちまう。 なんとか、持ちこたえつつリナに言う。 無駄だと解っているけれど。 「まぁまぁ、そう怒るなって。」 「怒ってないわよ!ただ”サイアク”って言ってるの!!」 やっぱり無駄だった台詞。 それが余計にリナの不快感に火を付けたようだ。 どうしようかと、考えていると胸の辺りからリナの声。 「このあたしをこんな満員電車に乗せた罪どうやって償って貰おうかしら?」 下を向くと、リナが挑発的な目で俺を見上げていた。 よく知っている顔。 それは、俺が引き出した女の顔。 昼間とは別人の、多分俺だけが見ることの出来る顔。 そんな表情のリナを見つめ返し当たり前のことのようにさらりと答えを返した。 「そりゃー、身体できっちり利子までつけて返すさ。」 「バーカ。」 「馬鹿で結構。」 「ホント、最悪。」 クスリと笑うとリナは俺の胸に顔を埋めて瞳を閉じた。 |