昔あるところに、たいそう仲の良い竹取の姉妹がいた。
どちらも利発で愛らしく、町の若者たちの間では《竹取二喬》などと呼ばれ騒がれていたが、二人は浮ついたところもなく、親から受け継いだ手業を活かして細工物などをこしらえ、それを売って慎ましく暮らしていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ある年の初夏のこと。
いつもの通り竹林に竹を取りに出かけていた姉娘のルナは、帰ってくるなりうきうきした様子で、妹に報告した。
「リナー。私、赤ちゃん拾っちゃった♪」
「また? ねーちゃんったら、今度は何の赤ちゃんを拾ってきたの? 犬?それとも猫?
スポットが焼き餅やいても知らないわよ」
夕餉の支度をしながら、妹のリナはそう言って姉の動物好きを冷やかす。
するとルナは ころころと楽しそうに笑い、
「あら、それは心配ないと思うわ。
だって・・・ホラ♪」
背中から竹篭を下ろして見せたのだった。
その中には・・・・・
「ね・・・ねーちゃん、これってまさか捨て・・・(汗)」
「うふ♪かわいーでしょ♪」
「かわいーでしょ♪じゃないっ! どっから見ても人間の子じゃないのっ!!
なんですぐお役所に届けなかったのよっっ!!!?」
「えー?だって、すっごくカワイイんだもん♪
あんたもこんなきれいな髪の毛、見たことないでしょ?」
「そりゃ・・・、ないけどさ」
赤ん坊は男の子で、まるで月の光のように柔らかな金の髪をしていた。
覗き込むと、青い瞳が嬉しそうに にこぉっと笑う。
その愛らしさにはリナも思わず釣り込まれて笑い返したほどだった。
「それにねぇ、この子を拾った状況ってのがまたちょっと特殊だったのよ」
「特殊って、ねーちゃん、この子を一体どこで見つけたの?」
赤ん坊がむずがり始めたので、抱き上げてあやすリナ。
昔近所で子守のバイトをした経験があるためか、その手つきはなかなか堂に入ったものである。
「夕方、私が仕事を終えて竹林を出ようとしていたところ、藪の中に1本、節が金色にきらきら輝いている竹があってね」
「おおっ!」
「いかにも怪しいから見なかったことにして通り過ぎようとしたんだけど」
ずるっ☆
「・・・無視ですかい!」
「そうしたらその竹が勝手に ばきっ!と折れて、中にこの子がいたって訳」
なるほど、それは確かに尋常ではない。
ルナが役所に届けるのを躊躇ったのも納得できる。
「でも・・・、そうするとこの子は何なのかしらね?
普通の捨て子でもなさそーだし・・・」
「あ、それだけは間違いないみたいよ。これが一緒に入ってたから♪」
そう言ってルナは、1枚の紙切れを取り出して見せた。
『このこ ガウリイ おたのみもうします』
「やっぱり捨て子かあああああっっっ!!!」
ひきっ
「びええええええええええええええっっっっ!!!!!」
「あああ、ビックリしちゃった? ごめんね!ごめんねええ!」
「おーよしよし。 うるさいおばちゃんで困りまちゅねー。
ほーら、私がルナおねーちゃまでちゅよー。
んで、こっちの胸ナシがリナちゃん。 よろしくね♪」
「ねーちゃん、胸ナシは余計っ!!」
「びいいいいいいいいいいいいいいいっっっっ!!!!!」
「うわああ、泣かないでええっ! ベロベロバー!」
かくして。
姉妹はなし崩しにこの不思議な赤ん坊・ガウリイを引き取ることとなったのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ところがこのガウリイ、普通でないのは容姿や生まれだけに留まらなかった。
とにもかくにも成長が早い。
拾われたときはまだ赤ん坊だったのが、
三日目には立って走り回るようになり、
五日目で言葉を覚え、
ひと月余りも経つと、背丈はもうリナと変わらぬまでに伸びてしまったのである。
「ふっ! やはりタダ者ではなかったわね、ガウリイ。
この私が見込んだだけのことはあるわ♪」
「ねーちゃんが見込んだのは容姿だけ・・・・・いえ、なんでもないです(汗)」
しかしそんな人間離れでも二人にとってはかわいい弟であることに変わりはない。
姉妹は人に訊かれるとガウリイのことを“引き取った遠縁の子”と言い、
町の人たちの方でも、少々変わってはいるが、気が優しくて子供たちと対等に遊べ、体が大きくて力仕事も手伝えるガウリイを、いつしか快く受け入れていたのだった。
ある時、遊び仲間の少年(5歳)が、ガウリイに訊ねた。
「なぁなぁ、ガウリイ。 お前んちには黄金色のすっげー美人がいるんだって?」
「黄金色の美人? なんだそりゃ?」
藪から棒な質問に、首を傾げるガウリイ。
「この間、植木屋のおっさんがお前んちで仕事した時、御簾越しに見たんだってさ。
なが〜い金色の髪をしたお姫様の後ろ姿を」
「あっ、それ、俺も聞いた!」
「おれも! でも、おれが聞いたのは、魚売りのあんちゃんからだったけどな」
友達は口々に言い立てるが、ガウリイはますます首をひねるばかり。
「うちにはお姫様なんかいないぞ?
それになんで後ろ姿だけですっげー美人って分かるんだ?」
「知るもんかい!
なぁ、金色の髪ってガウリイと同じじゃないか。 ひょっとして、お前の姉ちゃんか?」
「オレのねーちゃんはルナとリナだけだよ。知ってるだろ」
「ほんとかよー?」
「かくしてるんじゃないのか、ガウリイ?」
「隠してない隠してない」(ぱたぱた)
「うちにお姫様だなんて、いったいなんでそんなウワサが立っちまったんだろーなぁ?
・・・そりゃ確かに、ルナもリナも美人だけどさ」
友だちと別れ、帰宅したガウリイが勝手口を覗くと、台所では今まさにリナが夕餉の支度の真っ最中。
釜がグツグツ歌い、まな板がトントン軽やかな音を立てていた。
ガウリイがそろりそろりと忍び足で近づき、リナの背中に わっとしようとした、その時。
「こらっ! 人が刃物を持ってるときに、いたずらするんじゃない! 危ないでしょっ!」
後ろも見ずに、いきなり雷が落ちる。
「な、なんで分かっちゃったんだ!?」
「バカね。あんたの気配くらい読めないあたしだとでも思った?
それに・・・」
びっくりしているガウリイに、リナは にやっと笑って見せ。
「なんだか、いい匂いがするわよ、ガウリイ。 なにを持ってるの?」
「リナには敵わないな〜。 ・・・はい、お土産」
ガウリイは苦笑して、後ろの腰に差してあった野ユリを差し出した。
「あら、きれい! ありがとね、ガウリイ」
リナの笑顔を見ると、ガウリイの心も ぱぁっと明るくなる。
「なぁ、リナ、ハラへった。 メシまだ?」
「めし、じゃなくて、ご飯でしょ!
じきにねーちゃんが帰ってくるから、もうちょっと待ってらっしゃい。
その間に、ガウリイ、水を汲んできてよ」
「ほーい! ・・・・っと、忘れるところだった」
井戸に行きかけたガウリイは、つと引き返し、
「ただいま、リナ♪」
ちゅっ☆
「きゃっ!!
・・・くぉらっ、ガウリイっ!! またあたしをおちょくってえええっっ!!!」
「わわわっ!! リナ、包丁っ!! それ包丁っっ!!!」
「台所でなに騒いでるの、あんたたち?」
「ね、ねーちゃんっ!?」
「わーっ! ルナねーちゃん、お帰りーっ!!」
ルナの帰宅に、リナは慌てて包丁を背中に隠し、
ガウリイはルナの後ろに素早く逃げ込んだ。
「ルナ姉、聞いてくれよ〜! リナがさー!」
「違うわよっ! ガウリイがあたしにっ!!」
「はいはいはい、お二人さん、どうかもうその辺で。
それより・・・、ほ〜ら、本日の収穫よん♪」
じゃらじゃらじゃりーーん☆
ルナが竹篭をひっくり返すと、床の上に溢れる金と銀の輝き。
実はこれもガウリイを拾って以来姉妹の周辺で起こり始めた不思議のひとつで、
ルナかリナが竹林に出かけていくと、金色に輝く竹がまたしばしば見つかったのである。
切ってみると、中からは必ず黄金の薄板や銀の粒が出てきた。
姉妹はこれを ─── どこの誰からかは知らないが ─── ガウリイへの贈り物と考え、
彼のために屋敷を建て替えたり、着物や食べ物を買うのに使っていた。
「ちょうど良かったわ♪ これでガウリイの夏の着物があつらえられるわね〜♪」
それを聞いたガウリイとリナは、思わず顔を見合わせる。
きれいなものが大好きなルナは、ガウリイに美しい着物を着せて飾り立てることを何よりも楽しみにしていたのだ。
無論、こっそり個人的な趣味の範囲ではあったが、それでも。
「オレ男なのに、なんで女物の着物なんか着せられるんだ?」
「・・・・似合うからでしょ」
「うれしくない・・・(涙)」
萌黄、蝉の羽、杜若とはしゃぐルナを横目に、二人は重い溜息。
「あ、あのさ、ルナ姉・・・。 オレの晴れ着は一杯あるんだからさ、もういいよ。
それより、この金はねーちゃんたちの着物やお化粧に使ってくれよ。
ルナ姉もリナもお年頃なんだし、もっとお洒落しなくちゃ・・・」
「ありがとう。 お前は優しい子ね、ガウリイ」
くすんと目じりをぬぐうルナ。
「でも、いいのよ、そんなこと気にしなくたって。
私もリナも、ガウリイが元気で幸せでいてくれれば、それで十分なんだから。
それに、私ら二人合わせたより、ガウリイが着飾った方が百倍も綺麗じゃないの。
せっかくの美貌、あんたがお嫁に行く日まで、丹精こめて磨かなくちゃ勿体無いわ!」
精一杯の主張も、ルナの愛情と趣味の前ではこの有様。
ガウリイは ─── 特に最後の言葉に ─── がっくりと肩を落とし、呟いた。
「オレは・・・お嫁に行くんじゃなくて、貰いたいんだけどな・・・」
ところが、その言葉に今度は姉妹ふたりの目が きゅぴーーん☆と輝く。
「なになになに!? ガウリイ、お嫁さんにしたいコとかいるのっ!?」
「いやーん、ガウちゃんってば、お・ま・せ♪
子どもだとばっか思ってたけど、ちゃんと成長してるのね。ねーちゃんうれしいわぁ♪」
「はい、インタビュー! ガウリイさん、意中の人は ずばり誰なんですか?」
「お式は和式ですか? 洋式ですか?」
「はねむーんは、WAIHAですか♪」
「や〜〜〜め〜〜〜ろぉ〜〜〜〜〜っっ!!!!」
竹取の家は今夜も賑やか。
だがそんな平和な楽しい日々も長くは続かなかったのである。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「な・・・なんですってえええええっっっ!!!?」
それは運悪くルナの留守中 ─── 竹細工販路拡大のため、山犬のスポットをお供に行商の旅に出てしまっていた ─── に降ってわいた事件だった。
「なに興奮してるんだ、リナ?」
おやつのちまきを頬張りながら、のんびりと訊ねるガウリイ。
ルナがいないため女装させられる心配もなく、気楽な作務衣姿でくつろいでいる。
一方、リナの手には届いたばかりの文が握りしめられていた。
「タリムが・・・この地方の受領が、都へ上る途中、この屋敷に立ち寄るんですって!」
「なんだ、お客さんか〜。 べつに慌てることないじゃないか。
リナはおもてなしが上手だろ?」
「甘いわね、ガウリイ。
こいつが期待してる“おもてなし”ってのは、そーゆーモンじゃないわ!」
近頃町で頻繁に耳にする謎の美女の噂。
それと呼応するかのような、季節はずれの受領の上京。
「十中八九、こいつの目的は・・・あんただから」
「は? オレ?」
意味が分からず首を傾げるガウリイに、リナは思わずこめかみを押さえた。
「そっか・・・。あんたまだ生後二ヶ月だもんね」
「そのタリムとかゆーおっさん、オレに何か用なのか?」
「つまりね、タリムはあんたに・・・ってゆーか《黄金色の美女》、すなわち、女装したあんたに!“おもてなし”してもらいたがってるのよっ!!」
ぼとっ!
ガウリイの口から食べかけのちまきが落ちる。
「い・・・イヤだぞオレはっ! あんな格好、人目にさらすなんてっ!!」
「あたしだって嫌だわよっ!
自分の弟分が女装シュミの変態さんだなんて世間に知れるのはっ!!」
「オレのシュミじゃないっ!! ルナ姉のだーーーっっ!!!」
だがそのルナは今、旅の空。
「叫んだって仕方がないわ。 この危機はあたしたち二人でなんとか乗り切らなくちゃ!」
「なんとかったって、一体どーすりゃいいんだよ〜、リナ?」
「大丈夫! あんたの貞操はあたしが絶対に守ってみせるから!!」
「おう!! ・・・で、テイソーってなんだ?」
そんなこんなで、受領訪問の当日。
一緒に都へ行こうとか、自分の屋敷に遊びに来いとか、御簾越しにあからさまな誘いをかけるタリムに対して、《黄金色の美女》は言を左右にし、返事はすべて歌で返した。
結局、タリムがどうやら自分はフラれたらしいと気づいたのは、帰りの車の中のことであった。
「ふぅ〜、やれやれ・・・。上手くいったわね」
扇で顔をぱたぱた扇ぎながら、リナは安堵の溜息を漏らした。
「上手くいったのか? オレ、リナが言ってたこと、半分も分からなかったんだが・・・」
「いーの、あんたは分かんなくても! すべてこの優秀なリナおねーさまに任せなさい!」
笑いながらリナは自分の頭の上にある顔を扇で ぺちっ!と叩く。
今リナは、あぐらをかいたガウリイの膝の上に座り、ガウリイが羽織った大きめの袿(うちき)にくるまれていた。
二人の前には御簾と四尺几帳。
さらにタリムと話すときは、檜扇で顔を隠していたのだ。
もともと御簾越しの対話では相手の姿などろくに見えはしない。
かろうじてタリムに認められたのも、几帳からちらりと覗く黄金色の長い髪と、鈴を転がすような可愛らしい声だけだったろう。
「秘技、二人羽織!
うちのかわいいガウリイを、あーんな教養もないはげちゃびんのおっさんなんかに誰が渡すもんですか!!」
「いや、教養があってもハゲてなくても、おっさんはヤなんだが・・・。
それにしてもさ、リナ」
「なによ?」
「こーしてみると、やっぱお前さんちっこいなぁ〜! オレの方が兄貴みたいだ♪」
「な・・・!! ちょ、ちょっと、ガウリイ、なにすんのっ!!」
いきなり後ろから ぎゅっと抱きすくめられ、慌てふためくリナ。
「ん〜、ちっこくて、それに柔らかい♪」(すりすりすり)
「ば、ばかっ!放せぇぇっ!! 年上をからかうんじゃないいいっっっ!!!」
べしべしべしべしべしっっ!!!!!
檜製の扇は相当痛かったはずだが、それでもガウリイは楽しそうにいつまでも笑っていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
タリムを追い返したところまではリナの目論見通りだった。
しかし彼女にとって予想外だったのは、タリムが意外にも“へみにすと”で、懐の深い男であったということだ。
彼は自分をフッた女性を罵るどころか、「教養豊かで金銭などになびかぬ、心映えの見事な姫君」と褒め称え、都で吹聴してまわったのである。
お陰で。
「・・・・誤算だったわ」
その日以後、リナは連日都から押し寄せてくる求婚者たちをさばくのに大わらわとなってしまった。
つい今も、5人の貴公子らに無理難題を押しつけ、まとめて追い返したところ。
「リナ、お疲れさん。 甘いもんでも食うか?」
「ん〜〜、食べた〜い」
精も根も尽き果て、自分の胸にグッタリともたれかかるリナの口に、
ガウリイは黒砂糖のかけらを放り込んでやる。
そして目を瞑ったまま口をもぐもぐさせているリナの髪をよしよしと撫でながら。
「な〜リナ、“うどんの花”って何だ? うどんに花なんて咲くのか?」
相も変わらぬ緊張感のない質問。
「・・・あのね、ガウリイ。 “うどんの花”じゃなくて“優曇華(うどんげ)の花”よ。
別名、“蓬莱の玉の枝”とも言うけど」
「なんだ、残念。 それだけはちょっと見てみたい気がしたんだけどな〜」
「見たが最後。 あんたは嫁に行かなきゃならない羽目になるわ」
だらけたまま、リナは薄目を開けて苦笑する。
「まぁ、絶対そんなことにはならないよう、実現不可能な難題ばっか吹っかけてやったんだけどさ」
「あとの4つって何だったっけ? ツバメとネズミと・・・なんか、動物関連だったよな?」
「もぉ〜、誰に何頼んだかなんて、覚えてないわよ〜。
てっきとーにその場の思いつきで言ってやっただけだもん!」
「うあ。ひっでー話」
「あんたが言うな。ばか」
ガウリイのくすくす笑いが背中に響いて、リナはくすぐったそうに身じろぎした。
今では自分の体がすっぽり収まってしまう広い膝。逞しい胸。
居心地が良いのが、かえって落ち着かない。
早くルナに代わってもらいたいと思うのだが、余程商売が上手くいっているのか、姉が帰ってくる気配は一向になかった。
「・・・ちょっと! 何ごそごそしてんのよ?」
不意に体の上を彷徨いだした手を ぴしゃり!とはたくリナ。
以前からよく懐いていたガウリイだが、タリムの時以来、必要以上に自分に触りたがるようになったと感じるのは気のせいか?
「いや・・・、なんかリナが前より小さくなったよーな気がしてな」
「失礼ねっ! あたしが小さくなったんじゃなくて、あんたがまたデカくなったの!
ったく、同じモノ食べてんのに、どーしてガウリイばっかこんな際限もなく成長するのかしらね!?」
「ほんとだなー。 リナはずっとちっこいままだもんな。 特に胸・・・」
ぼかっっ!!!
「いってぇ〜〜! 暴力反対っ!!」
「うっさい! あんたがセクハラな発言するから悪いんでしょーがっ!!」
するとガウリイは口を尖らせ、言った。
「セクハラ〜? けど、そーゆーリナだって・・・」
「あによ? あたしが何だっての?」
「ずっと前、オレの初ちゅー奪ったじゃないか。
オレの口の周りにくっついたご飯つぶ取るついでに、ぶちゅ♪って」
「え・・・えええっっ!?(////)」
突然古い話を持ち出され、リナは真っ赤になってうろたえる。
「な、ななななんでクラゲのくせにそーゆーことだけはしっかり覚えてんのっ!?
あれはまだあんたがほんの赤ちゃんの時の話で・・・。
大体、あんなのはただのすきんしっぷ、家族同士のお触れ合いでしょーがっ!!
恨まれるよーなもんじゃないわよっ!!」
「ほぉ〜〜、すきんしっぷねぇ・・・」
ガウリイが低く呟き、一瞬、その目に奇妙な光が閃いたかと思うと、
いきなりリナの視界がくるっと反転し、背中が固い床に当たった。
「痛・・・っ! ちょっとガウリイ、なにすんのっ! どいてよっ!」
リナは馬乗りになったガウリイの胸や腹をぼかぼか叩いて暴れるが、
ガウリイの方はびくともしない。
それどころか。
「なにをするって、家族同士のお触れ合いだけど?」
「・・・はぁっ!?」
金の髪がさらりと零れ、リナの顔を輝く御簾のように覆う。
「すきんしっぷなら、いいんだろ?」
「ガ・・・」
言葉を失うリナの上で、ガウリイは不敵に笑った。
青い目が細められ、ゆっくりとその顔が近づいてきて。
「リナ・・・」
「・・・・・嫁に出すわよ」
びしっっっ!!!
反射的に固まるガウリイ。
すかさずリナは「でぃっ!!」とばかりに巴投げをかける。
「どおわあああああああああっっっっ!!!!!」
ばきっ!! めりめりめりっ!! どんがらがっしゃあああああんっっ!!!!
「・・・こんのセクハラエロエロクラゲぇぇぇっっ!!!
あんたのおシメ取り替えてやったの、誰だと思ってんのよっっっ!!!」
几帳をぶち倒し、御簾でぐるぐる巻きになった物体に怒鳴りつけると、
リナは屋敷を飛び出し、そのまま裏の竹林の中へとずんずん入っていったのだった。
・・・・つづきます☆