リナのたまご。
【 01 -景品- 】

By らぐぢすさん


変なものを手に入れた。
その名も『リナのたまご』
薄紅色のそれはニワトリの卵より少し大きくて両の掌にすっぽり収まるくらいのサイズ。
そして不思議と暖かく、妙に柔らかかった。

「……これ、食えるのか?」

手の中のものをまじまじと見つめ呟くと、とんでもない!と男は叫んだ。
心持ち涙目なのはこれを手放す後悔からなのだろうか。
ならば何故これを射的の目玉景品にしたのか?
そう聞いたら「3キロはあるブロンズ像をただのコルク銃で倒せるはずがないでしょう!」と怒鳴られた。
気持ちがいいほど思いっきりの逆切れだ。
でも倒してしまったものは仕方ないではないか。
何だか良く分からないが皆が目の色を変えて取ろうとしていたものだったし。
暇つぶしに一回やってみただけで何故こんなにも冷たい視線を浴びなくてはいけないのか。
そもそも普通に考えて倒せないような物を置くことは、一種の詐欺なのではないだろうか?
それなのに冷たい視線は射的屋の男には行かず何故自分に…リナのたまごを手にしてガウリイはぼやいた。

「とにかく食べないで下さいよ!この世に2つと無い貴重なものなんですから!」

たまごなのに食べるなと言う。
ならばどうしたらいいのか…飾って置いて腐ったらどうしてくれよう?
たまごの腐った臭いなんてのは、今居る温泉の硫黄臭だけで十分だ。
ますます困り果てて手の中を見つめるガウリイ。
男は怒鳴るように言った。

「暖めればいいんですよ!孵化させて!それで立派なリナに育つはずですから!」

そして、売り上げのお金が入った手提げの金庫だけを持ち景品のオモチャやぬいぐるみ、良く分からないトロフィーなんかは置いて男は足早に去っていった。
『チクショー!金髪のバッキャロー』とか叫びながら。
その後ろ姿をぽかんとしたまま見送り、視線を手の中のものに戻す。

「…育てるのか?コレを。」

見た目は普通のたまごの形をしているものの触れた感触はとてもたまごとは思えない。
言うなればアレだ、いちご大福。まさにそっくりだ。
うーん。と首を大きく右に傾げたところであらためて気が付く周りの視線。
ガウリイを取り囲むように数歩離れたところから皆が見ている。
どれもこれもリナのたまごを取るために大金をつぎ込んでいた連中だ。
その目が言う。『価値が解らないなら譲ってくれ』と。
しかしその言葉は誰からも出ない。
皆が牽制し合っているのだ。
それを察すると手の中の奇妙なたまごが急に大事になる。
皆が欲しがるものなら尚更だ。
ガウリイは皆の視線から隠すようにリナのたまごを懐にしまった。




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