リナのたまご。
【 02 -困- 】


さてどうしたものか。
足早に宿屋に戻ったガウリイは懐から取り出したリナのたまごを見つめてやっぱり困っていた。
これまでの人生でたまごを暖めたことなど無いのだ。
何をどうして良いのかわからない。

「…とりあえず…温泉に入れてみるか。」

そう思い立ち急いで浴場へと向かったのだが…温泉で暖めて良いのだろうか?
疑問に思い立ち止まる。
温泉たまごになったりはしないだろうか?
そもそも温泉たまごは温泉でつくるものだっただろうか?
個人的にゆで卵は半熟が好きなのだが自分で作るとつうっかりして固ゆでにしてしまう。
ゆでている途中で卵にひびが入ると白身が出てきてしまうし。
確か何かを入れると良いとかなんとか…なんだっただろうか?
塩?…味醂…イヤ、酢だったか?
呻りながら首を傾げるガウリイ。
誰かに聞いてみようかと廊下を戻りかけ、自分の中ですっかり話が変わってしまっていることに気が付き立ち止まる。
ゆで卵の上手な作り方ではなく、リナのたまごの暖め方を考えていたんだったと思い出しガウリイはまた首を傾げた。
しかしそれは、ハタから見れば何とも怪しい行動。

「どうしたんです?挙動不審ですよガウリイさん。」

横から声をかけられた。
そちらを向けば両手にいっぱいおみやげ袋を抱えた同僚の姿。

「アメリア。」

よほど情けなく困った顔をしていたのだろう。
彼女は心配げに見上げた。

「何か困ったことでもあったんですか?」
「いや…別に困ったということもないんだが…」

何となくリナのたまごのことは知られたくなて口ごもる。
しかしそんな曖昧な返答は逆効果だったようで、アメリアの大きな目が好奇心にキラキラ輝く。
何か隠そうとしているのを見抜いたのかも知れない。

「わたしで良ければ相談に乗りますよ!」
「いや、別」
「解ってるんです、ガウリイさん!」
「な、なにを?」
「貴方には今、助けが必要なんです!!」

アメリアの押しの強さは父親譲り。
人の名前や顔を覚えるのが得意でない彼の脳裏に深く刻まれた平和主義者の社長。
そしてその娘アメリア…。
ガウリイにもう選択の余地はなかった。
本当は自分一人でこっそりやりたかったのだが仕方がない。
観念して手の中のそれを見せてやる。

「!?」

ドサリとアメリアが両手のおみやげ袋を床に落とした。
落ちて倒れた紙袋からコロコロとこけしっぽいものの頭が転がった。
しかも沢山。
彼女の趣味をちょっぴり疑いつつガウリイはリナのたまごを手で包み込んだ。
目を見開き釘付けになっている彼女から隠すように。

「これ何だか知ってるのか?」

ガウリイがそう訪ねると、アメリアはぐわしっ!と凄い勢いで彼の浴衣の襟を引っ張った。
思わずバランスを崩し、たまごを落としそうになるガウリイ。

「わわっ!たまご!?」
「あーーー!わ、ごめんなさい!」

何とかたまごは無事で、今度は落とさないように大事に懐にしまう。
どうやらアメリアは何か知っているようだ。

「で、これ何か知ってるのか?」
「もちろんです!いちご大福に酷似したその外見!それは伝説の”リナのたまご”に間違いありません!」
「伝説って…そんな伝説級なもの見てすぐ解るのか?」

そう訪ねると彼女はドンと拳で胸をたたき自信たっぷり言い切った。

「そんなもの、愛と正義が心に有れば自ずと解るものなのです!」
「…そうなのか。」
「そうに決まってます!」

どうやら愚問だったらしい。
アメリアはでも、と首を傾げ俺を見上げた。

「どうやって手に入れたんですか?リナのたまごの行方は何百年も不明だったはずなのに。」
「いや、射的の景品に…」
「しゃ、射的…ですか?あのコルク銃で変なトロフィーとかぬいぐるみとか打ち落とす?」
「あぁ。なんかこれで荒稼ぎするつもりだったらしいぞ。」

懐にしまったリナのたまごをやんわりとなでるようにしながら言う。

「はぁ、そうなんですか…」
「で、暖めて孵化させろって言われたんだが…どうすればいいのか解らなくて。」
「育てるんですか?」
「そのつもりなんだけどな。」
「…確か、家にあった古い本にそのたまごについて書いてあったはずですから、社員旅行が終わったら調べてみましょうか?」
「あぁ、そうしてくれると助かる。」

アメリアに例を言い温泉は取りやめて部屋に戻った。
もちろんその前に散らばった土産のこけしっぽいものを拾い集めて。



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