【 03 -誓- 】
ミーティングが終わり会議室を出るとアメリアが待ちかまえていた。
「ガウリイさん見つけましたよ例の本!」
待ちに待ったリナのたまごについての本!
なにしろ伝説級の代物。
大きな声では話せないため、彼らは今使い終わった会議室に入り本を開く。
「……読めん。」
開いた本には理解不能な文字が並んでいる。
本の隅に描かれたイラストは確かにいちご大福…もといリナのたまご。
しかし肝心の字が読めない。
するとアメリアが手を伸ばし本を取ると、オッホンと咳払い。
「一つ。リナのたまごを肌身離さず傍におくべし。」
読めるのか?そう聞くと、愛と正義が心に有れば!と帰ってくる。
頼もしいような、そうでないような複雑な気分でガウリイはアメリアの説明を聞いた。
「二つ。愛の言葉を囁くべし。」
愛の言葉?首をかしげると、愛が命を育むのは世界の常識です!とアメリア。
そして、
「三つ……?」
「どうした?」
「いえ、あの…三つ。美味しい料理を大量に用意するべし。」
料理?大量?ますます意味が分からなくなってきてアメリアを見るとこちらも首を傾げている。
が、何か思い浮かんだのかぽんっと手を打つ。
「きっと孵化させるためにいっぱい食べなくちゃいけないんですよ。」
「俺が食うのか?」
「ホラ、よく言うじゃないですか『妊娠中はご飯を二人分食べなさい。』って。」
「…言うか?」
「言いますよ!」
「でも、俺男だし。それにこれたまごだぞ…俺が二人分食べる必要無いんじゃないか?」
そう言うとアメリアは本を穴が空くほど見た後首を傾げ考え込み、やがてまた何か思いついたのかぽんっと手を打った。
「解りました!生まれてくるリナに食べさせるためですよきっと!!」
「…いきなり飯を食うのか?生まれてすぐ?」
「そこまでの記述が無いから解りませんが、わたしの愛と正義を愛する心がそうだと言っています!」
いつも思うのだが彼女のこの自信は一体どこから来るのか。
ガウリイは頭の隅でそう思いながら席を立った。
「ま、とにかく言われた通りやってみるよ。ありがとなアメリア。」
そう言って部屋を立ち去ろうとするガウリイをアメリアが呼び止めた。
その妙に真剣な声にガウリイが振り返ると本を握る手に力を込め彼女は真っ直ぐガウリイを見上げた。
「ガウリイさん。リナのたまご…本気で育てるんですよね?」
先程までとは違う真剣さ。
他にも何かあの本に書いてあったのだろうか?
「…それはどういう意味だ?」
「そのままの意味です。いい加減な気持ちじゃなく。本気で最後まで育てて、守り通すと誓えますよね?」
何に誓えばいいのか。
ガウリイは暫し考える。
曖昧な答えや、ちゃかしたような答えは返してはいけないと思った。
神様なんて信じていないし、もちろん仏様もだ。
でも、誓うのならば…
「そうだな…ばあちゃんに誓ってちゃんと育てるよ。」
そう言うとアメリアは頑張って下さいとニッコリ笑った。
なんだか良く分からなくて拍子抜けする彼の横を通り過ぎ出ていこうとするアメリアを今度はガウリイが呼び止めた。
「なぁ、なんで急にそんなこと聞くんだ?」
振り向いたアメリアはまた真剣な表情で口を開いた。
「過去に何度もリナのたまごを巡って争いが起こっていたんです…少なくてもこの本にはそう記されています。」
「争い…戦争か?」
「えぇ。歴史に刻まれた大きな争いごとにはリナのたまごの存在が絡んでいるらしいです。」
「…何故?」
今も一部の間で信じられている伝説。
まことしやかに囁かれる空説。
「リナのたまごを手にした者は、世界を揺るがす力を得るだろう。」
「…世界を…」
低く呟くガウリイ。
暫し会議室は静まり返り…
「でも、ガウリイさんなら安心ですね。」
アメリアの明るい声がした。
「俺なら?」
「だって、別に世界征服がしたいとか、大量無差別殺人がしたいとか、そんなこと考えないでしょう?」
「…まぁ。」
「だったら安心ですよ。」
ならば何故誓いをたてさせるような事をしたのか?
ニコニコするアメリアを前にガウリイはそう思った。
「だって、生き物を育てるんですよ!それなりの覚悟が必要じゃないですか!半端な気持ちで育てちゃいけません!」
肩の力がどっと抜けた。
彼女の考えは良く分からない。
深く考えているようでいて、根は単純に愛と正義なのだからまったく掴めない。
少々ピントのずれたことを言うのは天然なのかそうでないのか。
まぁ、考えても仕方ないとガウリイは笑った。
「楽しみだなリナが生まれるのが。」
「そうですね!」
早速今夜から暖めようと思った。