リナのたまご。
【 05 -疑問- 】

By らぐぢすさん


「では、少し遅くなりましたが始めましょうか。」

ようやく妄想の世界から戻ってきたフィルフィールが今日の料理の説明を開始する。
生徒は6人。
ガウリイ以外は男が1人と残りは近所に住むマダム達。
料理教室は毎週金、土の午前中。
作った料理で昼食をというシステムだった。
ガウリイは仕事があるため必然的に土曜の生徒だ。
平日は近所の主婦が通っている。
ちなみに料理教室以外の曜日も、ピアノ、書道、華道、茶道、着付けと色々教室を開いているらしかった。

「それでは、まずはお肉から…」

シルフィールの説明を聞きながら目の前の食材を手に取った。
子羊の骨付き肉。
それに塩、ブラックペッパー、すり下ろしたニンニク、バジル、オリーブオイル…などで下味をしっかり付ける。
30分マリネしたそれをオーブンに入れ焼く。
その間に肉にかけるソースとスープとサラダとドレッシング作り。
肉の焼ける良い匂いを嗅ぎながら野菜のスープをレシピ通り作り、シルフィールの補足の説明を貰ったプリントに書き込んでいく。
全てはリナの為だ。
ガウリイは「美味しい!」と生まれてくるリナに言って貰うのを楽しみにしているのだ。
育てる内に彼の愛情は相当な物になっているようだった。
鼻歌でも歌いたい気分でドレッシングを混ぜていてふとガウリイはあることに気が付いた。
何故今まで気が付かなかったのかと思うほど根本的なことなのだが…

―――たまごから生まれるものって…人間なのか?―――

ということ。
シャカシャカと掻き混ぜる手は休めることなく彼は考えた。
たまごから人間が生まれるか?
答えは否。
生まれるわけがない。
ならば何が生まれるのだろうか?
…昆虫?爬虫類?それとも鳥か?

「…でも、普通のたまごとは違うしなぁ…」

ぼそりと呟きつつもその手は止まらない。
勝手に人が生まれると思い込んでいたガウリイは少し焦っていた。

「生まれてくるのが人間じゃなかったら俺、料理教室よりもペットショップか動物園に行った方が良いのかも…」

うーん。と首を傾げるガウリイのつぶやきは誰にも聞こえていない。
美形は例え妙ちきりんな事を考えていても絵になるらしかった。
シルフィールも他のマダム達もそれぞれ自分たちの妄想の海の中だ。
ただ一人、トリップしていない人物はいるものの「変な奴。」とそれだけであとの視線はシルフィールに向いてしまうのだった。

シャカシャカシャカシャカ

ドレッシングはすっかり泡だっている。
生まれてくるものについて考えているガウリイの目がふと壁の絵に止まった。
そこには竜の絵。
スィーフィード…宗教画だ。

「………まさかな。」

アメリアは言っていたではないか。”リナのたまごを手にした者は、世界を揺るがす力を得るだろう。”と。
もし、生まれてくるのがスィーフィード…竜だったらどうしよう。
ガウリイは真面目に悩んでいた。

「…部屋には入らないよなぁ…と言うか、何食うのかな…」

やはり肉だろうか?
商店街やスーパーの肉を買い占めても足りないかも知れない。
それだと少し困るんだがな…と首をひねった彼の視線の先に今度はカッパの置物。

「カッパ…河童…そうか、妖怪って線もあるんだよな…」

見たことも聞いたこともないたまごだ。
ならば生まれてくるのは妖怪なのかもしれない。
そして、やはりガウリイは真剣だった。

「…妖怪について調べるなら…妖怪博物館にでも行くのが一番か?」

泡だったドレッシングにざく切りにしたトマトや水菜、ゆでたシメジとアスパラなどを入れて混ぜながら考える。
スープと、肉の焼ける香ばしい匂いに彼のお腹がぐぅと鳴った。
そして、どうしたら良いのか散々悩んだ挙げ句彼の出した結論は「まぁ、生まれたら解るから良いか。」だった。




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