By らぐぢすさん
ゴトゴトと眠気を誘うように揺れる電車。
都心からどんどん離れていく景色には緑が多く見え始める。
大学近く、地下へ潜り込み電車で5駅ほど進むと地上に這い出て再び別の電車へ。
そこから約45分。
各駅停車なら、60分。
駅を下りて家までは徒歩15分・・・
やっぱり、彼の家は遠い!!
「ねぇ・・・ガウリイ」
「ん〜?」
込み合う時間帯を避けたおかげでゆっくりシートに座る。
半分眠っている頭は枕代わりのガウリイの肩に乗せられて、優しく髪を梳く大きな手の感触を楽しんだ。
「遠い。」
「・・・ははっ・・・」
寝ぼけている所為で声が据わっているような気がする。
ガウリイが苦笑いしているのが見えた。
「ね、引っ越せば?もっと大学に近いトコ。」
「いや、でもなぁ・・・高いだろ家賃。」
妙に現実的なコトを言うガウリイに少し驚いた。
いや、別に彼自身・・・金使いが荒いとかそんなことは無いんだけど・・・
なんかイメージに合わない。
別にバイトをしているわけでも無いのに、学費も家賃も出ている訳なのだから実家が金持ちなのかしら?
そう思うと、あたしは彼のことを何も知らない。
「そーねぇ・・・まぁ高いと言えば高いけどさ。今の部屋、幾らなの?家賃。」
「あーーー確か、10万・・・11万かな?」
「それだけ出せれば借りられるわよ、それなりに広い部屋。」
告げるとちょっと困ったような表情のガウリイが居た。
「いやさ・・・でもソレって8畳の1DKくらいだろ・・・」
「う〜ん、まぁ確かに。良くて10畳ね・・・良いじゃないそれだけあれば十分よ!」
「・・・リナは良いとしてもだ。」
「うん?」
「俺、この身体だぞ・・・」
「へ?」
「8畳の1DKに住んでる俺想像して見ろよ・・・」
「・・・うぁ、めちゃめちゃ狭っくるしいわね・・・」
「だろ?」
二人溜め息付いて流れる景色に目を向ける。
確かに今の彼の部屋は広い。
10畳の寝室と、8畳の別室に、リビングダイニングとキッチン。
引き戸を外された8畳はリビングと続きにされていて更に広い。
磨かれたフローリングに家具の少ない殺風景さをプラスしてとにかく広く見える。
「今のところあの部屋が一番良いんだよな〜。」
「遠いけどね。」
「・・・だな。」
「電車代の方が高くならない?」
「・・・前はバイクで大学まで行ってたからなぁ・・・」
「バイク?ガウリイ持ってたっけ?」
「あぁ・・・前にルークに貸してなぁ・・・事故っただろ?」
「そうだったわね・・・それで怪我してダブったんだもんねぇ・・・」
イトコのルークが怪我して留年。
たまたま冷やかしのつもりで病院に行ってガウリイに会ったんだっけ・・・と思い出す。
そう話している間も電車は眠気を誘う揺れを起こしながら進む。
本当に・・・遠い。
「ガウリイ・・・」
「ん?」
「やっぱ遠い。」
「そっか・・・でもさ。俺こうやってリナと電車乗ってるの嫌いじゃないから。」
「?」
「満員電車は密着できるし、空いててもこうやってさ・・・」
「ちょっ!?」
端から見たらあたし達はかなり鬱陶しいバカップルなんじゃないかと思ふ。
でもまぁ、こういうのも悪くない。
悪くないけど・・・やっぱり近くに引っ越せばいいのに・・・。