★10★
それから、二人の逢瀬はより濃厚なモノへと変わり――。
会う度に幾度となく肌を合わせ、リナも次第に羞恥が薄れていった。
実際、二人の相性はこの上なくよかったようで――。
どちらも意識しないまま、互いなしにはいられないようになっていたのだった。
頻繁に調査に行くリナを、本陣の者達は研究熱心なのだとしか思わず、誰も止めたりはしなかった。
彼女の強さは知れ渡っていたので、身を案じられ援軍を出されるコトもなく。
今まで誰も原因を突き止めていないせいで、成果らしい成果がなくても、不審に思う者もいず――。
もっとも、あんな辺境の場所に、逢瀬の相手どころか何か楽しみなどがあるなどとは思い当たるはずもなかったのだが。
だが、ある時、どうしても行くに行けない時が来て――。
りりり……。
高い微かな音が、暗闇に満たされた小屋の中に鳴り始めた。
それでも、二人を起こすには十分で。
「――ガウリイ?」
「オレが見てくる。おまえは寝てろ」
リナに腕枕していたのを撫でるように引き抜き、軽い動作で起き上がる。
汗ばんだ肌に貼り付いていた長い金色の髪が、体の動きでなびいて、リナの肌にもまとわりつく。
追うように頭を起こすと、ガウリイの前に手をかざし。
「危ないから、持ってって。
『明り〈ライティング〉』」
「サンキュ」
魔法の明かりを受け取りながら、その手にキスする。
それだけであっさり頬を染めたリナの裸身が、闇の中照らし出された。
完全に反応を楽しんでいるらしく、ガウリイが満足そうに笑う。
「殺気や害意は感じないから、大丈夫だと思うぞ」
さっと身支度して、剣を片手に外に出ていく助平を見送りながら、リナはため息を吐く。
「――ったく、あれだけ励んだクセに、何であんなにムダに元気なのかしらね」
リナとて、面倒で出ていかないわけではない。
むしろ、こんな状況ならすぐに動ける恰好になるのが安全だろう。
しかし――
「こっちは――腰が立たないってのにぃ」
――ということである。
体力差は比べる以前の問題だとしても、こんな方面でもそうだとは考えもしなかった。
最初は慣れないからだと単純に思っていたのだが――、すぐに間違いだと悟るハメになり。
そして、同時に逃げられないのも悟ることになった。
単にしつこいとか、勝手だというなら、まだ蹴り飛ばしてやる所だが。
「――何であんなに上手いんだか……」
何より、自分がそれを望んでいるから、抗いようもない。
先にあるのは大きな危険を孕む幸せだとわかっていても、もう離れる術はなく。
まるで麻薬のようじゃないかと、リナはガウリイの大きなパジャマをもそもそと羽織りながら、苦笑いした。
ドアの軋んだ音を立てて、ガウリイが戻って来た。
「大丈夫だったぞー、ほら」
言って差し上げたのは、大きな夜行性の動物らしい。
「明日の朝メシ、出来たな」
毛布を巻き付けて半身を起こしていたリナは、きょとんとしてから笑い出した。
「何だ?」
「だっ――てぇ、あれを仕掛けた時と同じコト言ったわよ、あんたったら」
「そうだっけ?」
「あ、それ、もうちょっとそっちねー」
「このへんか?」
「そーそー」
ある逢瀬の時。
リナは何かアイテム持参でやって来た。
不思議がるガウリイを引っ張って、小屋の周りに配置し始めたのだが――。
「よーし、これでおっけー♪」
「なあ、何なんだ? これ?」
ガウリイはしゃがみ込んだまま、金属の支柱の付いたような小さな宝玉をつつく。
「こら、壊さないでよ」
リナが金色の後頭をつつく。
「この小屋の周り、それに畑の周りに、一種の結界を張ったのよ。
試してみるから、これ持ってて」
そう言って手渡すのは、リナの掌ほどの透き通った石の板のようだった。
ガウリイをそこで待たせたまま、リナは埋めた宝玉の間に立つ。
石の板が高い鈴のような振動音と共に、うっすら光を放ち始める。
「ん、ちゃんと作動してるわね」
「――???」
魔道に疎いガウリイは全く付いて来れていない。
「つまりね、誰か入ってきたら、反応してわかるってワケ。
畑の方は、動物避けに軽い雷撃も付けといたわ。
これで安心でしょ?」
「――だがよ。こんなのがなくてもオレはわかるぞ?」
「あんただけ、ならね。
だけど、あたしだけ何かで残ってたりする時はどーすんのよ。
魔族とかならあたしにもわかるけど、フツーの人やあんたの仲間だって来る可能性あるでしょ?
気配に気付いてからじゃ、隠れるのが間に合わないかもしれないじゃないの」
ガウリイは少し考え込んで――。
「そーだなぁ。
オレもおまえと一緒だと、気付かないコトもあるし」
「――は? なんでよ?」
「そりゃあ――こんな時」
言うなり、ガウリイはリナを引き寄せ、唇を奪った。
「んむむむっ!」
リナは最初はもがいていたものの、やはりそこは久々の逢瀬。
すぐに抱き返して浸り込む。
そして、蜜月真っ最中とくれば―――そこはそれ、やはり。
「ちょ、ちょっと、ガウリイっっ!
あ、あんた、な、何をっ!?」
草の上に押し倒されて我に返ったのか、リナが叫ぶ。
「そりゃ――なあ。――イヤか?」
苦笑しながらも、ガウリイの手は止まらない。
「そ、そうじゃなくて……あああっ、違うぅぅっ!
こ、こんなトコで……、こらっ、離しなさいってば!」
もがくリナの手の中で、石の板が反応した。
侵入がわかれば、方角もわかるのだろう。
「『火炎球〈ファイヤー・ボール〉』っ!」
押し倒されたの頭の方向に向かって、リナが呪文を放った。
ちゅっどーーーーんっ!
さすがにヨコシマモードは中断して、剣を手にガウリイが着弾点に向かう。
起き直ったリナは、その背中に向けて問う。
「何だったのよー!?」
ガウリイは振り返って――。
「――昼メシ、出来たみたいだぞ」
こんがり焼けた動物らしきモノを手に、苦笑いした。
「――ちょっと。何してんのよ、あんたはっ」
「だって、危険はなくなったし――なぁ」
リナが思い出話をしているうちに、ガウリイは再びすっかり服を脱ぎ捨てて、ベッドの上に陣取っていた。
それはいいとして――リナの羽織ったパジャマに手をかけ始めている。
「だからって、どーしてすぐそっちに行きたがるのよっ」
「リナの肌が一番心地いいから」
リナはまた頬を染めて、抗おうとする。
「だっ、だからって、今晩はもう大人しく寝かせてよっ」
「――今晩じゃなきゃいいのか?」
「……明日は明日のことよっ」
「……わかった」
ガウリイはにっこり笑うと、さっきと同じ腕枕に添い寝という体勢になった。
しっかりリナを剥いてしまった後で。