5.絡み合う 思惑の果て 紡ぎしは(その6)
心臓が跳ねる。
一拍、声が遅れた。
「――ガウリイ?」
いつもより昏い――瞳の蒼。
しばらくぼんやりして――やがて、驚いたような表情に変わる。
「――リ――ナ――」
かすれて力のない声。
「――オ――レ――?」
息が楽じゃないのか、吐息の中に声が混じっているよう。
「――リナ――? ど――」
話すのを止めさせようとする前に、ガウリイが咳き込んだ。
「ガウリイ!」
あたしよりずっと体格も力も勝る身体を、必死に押さえようとする。
抱え込むようにしてしばらく背中をさすっていると、ようやく治まってきた。
「――落ち――着いた?
――喋らなくて――いいから――」
やだ――あたしの声もかすれてるじゃない。
大きく息を吸って、何とか呼吸を整える。
「医者呼んでくるから、待ってて」
ガウリイが何かリアクションする前に、あたしは部屋を飛び出していた。
「大丈夫ですよ。
気管に残っていた血でむせたんでしょう」
ガウリイを診た医者は、苦笑しながら言った。
「ですが、今晩は出来るだけ喋らない方がいい。
負担がかかりますからね。
――また何かあったら、呼んで下さい」
医者の出ていった後、あたしはベッドの側の丸椅子に腰掛け直した。
何も声を出さない代わりに、ガウリイがじっとあたしを見ている。
それは、いつもの状況がよくわかっていないという時の表情。
――まあ、今はわからなくっても無理ないけど――さ。
「――あんた――ぶっ倒れた――のよ。何――やってたわけ?」
違う。
こんなコトを言いたいんじゃなくて――
「さんざんヒトを心配――させておいて――」
ガウリイがまた驚いた顔になってしまう。
違うんだって。
あたしが言いたいのは――
――言いたいのは―――?
少し息を付くように苦笑いをしてから、ガウリイの右手がゆっくりと上がった。
――?
そのままあたしの頬を、その手がそっと撫でる。
「――すま――ん」
身体が震えたような感じがした。
目頭が勝手に熱くなってくるのを、必死にこらえる。
無理に抑えようとしてるから、ますます拗ねたような顔になっているに違いない。
――それなのに。
ガウリイの表情はどこまでも優しい。
あたしはやっとの思いで、言葉を紡ぐ。
「――――ばか」
ガウリイがいっそう破顔する。
まるで、何もかも見透かされているみたいだ――。
それから、頬に添えられた大きな手が、あたしの頭をゆっくりと引き寄せて――。
近付いてくるガウリイの顔。
すぐ間際まで来た所で――――時間が止まった。
ガウリイの瞳に、蒼に溶けたあたしの顔が映っている。
心臓の音が、時計の代わりに刻〈とき〉を刻んでいくようだ。
やがて――
ガウリイは吐息をもらすように、苦笑いすると。
頬ずりでもするみたいに、自分の顔のすぐ脇にあたしの顔を添わせた。
動悸は変わらない。
いっそう増していくばかりのような気もした。
―――でも。
イヤじゃなかった。
触れている頬の暖かさが。
髪を撫でるガウリイの手が。
ガウリイの日向のような匂いが。
すぐ側にいるんだと、確かに生きているんだと、あたしに告げているようで――。
ずっとずっとこのままでいたいと――心から――思った。