3.末姫様、王城へ行く
そのよん
「リナぁぁ! きゃあっ、おひさしぶりぃっっ!!」
がっちゃんがっちゃんがっちゃん……!
すかっ。
「…いやぁん、どうして避けるの?
再会の抱擁しようとしただけなのにぃ。
リナったら、あたしのこと忘れちゃったのぉ?」
じょーだんではない。
彼女(?)に渾身の再会抱擁なんかされた日には、まぢに生命が危ない。
あたしは半ば尻餅を付いたような恰好で、苦笑いを浮かべる。
「お、覚えてるわよ。ナ、ナタリー」
忘れようったって、忘れられる相手ではない。
……忘れてたかったけど。
「わぁ、よかったぁ!
でも、こんな所でリナに会えるとは思わなかったわっ、嬉しいっ(はぁと)」
あれからずいぶん時間が経ってるとゆーに、このをとめちっくぶりもちっとも変わってないよーだ。
「おい、リナ。
この鎧騎士と知り合いなのか?」
ガウリイの声にはっと気付けば、周りにいる全員があっけに取られている。
「ねぇ、リナぁ。
このハンサムな剣士さん――もしかして、もしかして。
――リナの旦那様なのっ?」
頼むから、そのごつい手甲の拳を口元に当ててぷるぷる、はよして。
「そ、そーだけど――」
「きゃあ(はぁと)。
すっごぉい、リナったら。
しばらく会わないうちに、こんな素敵な旦那様を見付けてるなんてぇ(はぁと)」
「そっか、久しぶりに会ったのか。
よろしくな、リナの亭主のガウリイだ」
――さては、ガウリイ、ナタリーの正体にまだ気付いてないな?
「はじめましてぇ。ナタリーって言います(はぁと)」
「あんた女なのに、こんなごっつい鎧なんてすごいな」
「えー、そんな〜、ハズカシいっっ。
それに、ナタリーって呼んで(はぁと)」
話がかみ合ってないと気付かずノンキに挨拶を交わす二人の所に、レイナがとことこと寄ってきた。
その蜜色の頭には、オプションよろしく瑠璃色の小鳥がちょこんと乗っている。
なるほど、このキレーな鳥にナンパされたわけね。
「ねぇ、ナタリー。おかーしゃんのおともだちだったの?」
「『お母さん』?
そっかぁ、どぉりでレイナちゃんって、誰かに似てるなぁって思ったワケね。
リナとガウリイの子供だったんだぁ(はぁと)」
レイナはにこにこと嬉しそうに微笑む。
「しょーだよ。
おにーしゃんたちもしょーなの」
ナタリーは男の子達をぐるりと見渡して。
「まあぁぁぁっ! こんなに子沢山なのぉ!?
すっごーい、リナっ。とっても幸せなのねぇ(はぁと)」
一人テンションの上がるナタリー。
あんたに言われると、何か余計に恥ずかしいんですけどぉ。
「――黒髪の子は違うわよ」
「じゃあ、他はみんな?
このガウリイによく似たお兄ちゃんや、そっくりの双子ちゃんまで?」
兄ちゃん達はそれぞれ挨拶するようにうなずくものの、相当訝しんでる表情だ。
「――リナ、せっかく昔の友達に会えたってのに、何をしゃがみ込んでんだ?
ほら」
ガウリイは脱力しているあたしの両脇に手を入れると、ひょいっと持ち上げるようにして立たせた。
「わぁっ、優しい旦那様なのねっ(はぁと)。素敵、素敵ぃっ♪」
どーしてこーいう時に、煽るようなコトするのよ、ガウリイっ。
ますます収拾のつかなくなりそうな状況を引き留めたのは、例によって例のごとくの三男坊・ラーグだった。
「――母さん、このよろい、人間が入ってるんじゃないでしょ?」
ようやく、ナタリーが動く鎧〈リビング・メイル〉だと言うことを説明出来た。
「ふーん、これがそうなんだ」
「父ちゃんよりでっかいんだなぁ」
「ずいぶん力ありそうだから、城の番人か何か?」
男の子達が感心する中、アーリエが苦笑しながら補足。
「ナタリーはこれでも、この城の歌姫なんですよ。
宴の時などに、楽師達と共に座を盛り上げてくれるんです」
「ナタリー、おうたじょうずだもんね♪」
「ありがと(はぁと)。レイナちゃんっ」
――そっか、さっきから歌ってたのはナタリーだったわけね。
「歌う『動く鎧』……?」
さすがは白魔法都市の王子・アル、その異様さに気付いたようだ。
そう、動く鎧の本来の用途は警護。
間違っても、歌って踊るとかではない――フツーなら。
ゼフィーリアの女王様の物好きも、相当筋金入りのようだ。
でも、一番わかってないのは、やっぱりガウリイかも。
しばらくじーっとナタリーを見つめていたと思ったら、いきなり鉄仮面をぱかっと開いて覗き込む。
「きゃっ!?」
「――へぇ。ホントに空なんだ」
どげしっ!
「なぁにやってんのよ、あんたはっ!?」
「もぉぉ、ガウリイって、ダ・イ・タ・ンっ(はぁと)」
単純明快な父親の理解法とは違って、ラーグとレイナはちとワケわかんない方向に走ってる。
「なかみはないけど、あるよな?」
「うん、ちゃんとナタリーいるよ♪
ラーグおにーしゃんもわかるよね」
「はっきり見えるわけじゃないけど、すごく強いのはわかるぞ」
――そりゃあ、そもそも『動く鎧』ってのは、全身鎧に低級霊なんかを憑依させて作るもんだけど――、あんた等の会話、コワいってば。
「何はともあれ、レイナを連れてきてくれたのはお礼を言うわ。
探してたのよ」
「お礼なんていいのよっ。
可愛いレイナちゃんとおしゃべりできて、すっごく楽しかったもの(はぁと)」
レイナも嬉しそうに小首を傾げ。
「おかーしゃん、ナタリーねぇ、おうたいっぱいうたってくれたんだよ」
「レイナちゃんがとっても喜んでくれるから、嬉しくてどんどん歌っちゃったわ♪」
「またきかしぇせてね(はぁと)」
「いいわよ(はぁと)、いつでもっ(はぁと)」
――脱力する会話だ……。
「さあ、レイナちゃんが無事見つかったことですし、そろそろ参りましょうか?」
アーリエの促し。
「参るってどこに?」
ナタリーの問いに、あたしが答える。
「これから、レイナを女王様に拝謁させなきゃいけないのよ」
「――ええ〜!?
それじゃ、城中のウワサになってる『とってもすごい魔法の使える子供が来る』って、レイナちゃんのことだったの?」
「そういうコトね」
「すっごーいっ(はぁと)。さすがはリナの子ねぇ」
くふふ、もっと褒めて♪
「さ、行くぞ」
放って置くとまたどっかに行きかねない末姫を頭の鳥ごと抱え上げて、ガウリイが歩き出す。
「レイナ、鳥は置いていかないとダメよ」
「えー? しょーなの?」
レイナは小さな手に鳥を乗せると、名残惜しそうにに頬ずり。
かなり距離の近くなったナタリーの顔に向かって、そのまま鳥を差し出した。
「ナタリー、この鳥しゃん、あじゅかっててくれる?」
「うん、いいわよ(はぁと)。がんばってきてねぇ(はぁと)」
「うん、ありがとっ♪
鳥しゃん、またあとでね♪」
ナタリーのでっかい肩当ての上に素直に移った鳥は、瑠璃色の羽をちょっと広げてきれいな声で一鳴き。
――まぁたコミュニケーション成立してるし。