3.末姫様、王城へ行く
そのじゅう
「本当に覚えちゃいましたねぇ………」
「はあ………」
目の前で見事に舞い踊るゴーレムを見ながら、緊急招集されたダンスの教師とあたしは呆然と呟き合っていた。
銅像の方はもちろん、石人形の方も造詣は子供のオモチャみたいなのに、異様に関節は効いてるし、決めポーズまでカンペキ。
何なんだ、このワケわからんシュールなノリは。
「あれ、ここってこうか?」
ガルの問いに、隣にいた銅像ゴーレムの方がステップ教えてたりするし。
あたしからガウリイの腕に移って、のんびりお昼していたレイナも、みんなの所に駆け寄っていく。
「しゅごい、しゅごい、ゴーレムしゃんたち♪
レイナにもおしえて〜♪」
娘、娘、娘っ、レイナぁぁぁぁっ!
「何やってんだ? 踊らないのか、リナ?」
げしっっっっ!
「あんたまで、この状況をまっとーだと思ってるんじゃないぃぃっ!!!」
ガウリイの差し伸べてきた手を踏んづけて叫ぶあたし。
「まあまあ、とても奇抜な趣向ではありませんか。
そなたも照れていないで、お楽しみなさい。
――レイナ、妾も仲間に入れてくれますか?」
あたし達の横を通り過ぎながら、レイナに笑いかける女王。
「うん、いっしょにおどろ♪ じょおーしゃまっ♪」
うあ、いよいよ王城ダンス大会本格オープンっ?
さすがこの女王の配下と言うか、逞しいゼフィーリア人の気質と言うか、すでに楽師達も使用人達もノリノリだ。
呆れかえって座り込んでる魔道士協会の面々や、常識派を捨てきれない人々だけが脇でギャラリーに徹している。
何せ女王御自ら楽しんでいるのである。そう簡単に退去出来ないんだろう。
――って、そーいや、まだレイナの処遇伝えてないし。
……………ま、いっか。
あらぬ噂やら楽しくない方向の想像ばっかり逞しい御仁達には、うんと楽しさウェーヴ攻撃しておこう。
盛り上げは任せたぞ、レイナ。
今回だけはかーさん、静かな見守り役に徹しててあげるからね。うん。
ぴぴ……
あらためてたっぷり昼食を堪能していると、小さく高い鳴き声と一緒に、レイナのナンパ友達・瑠璃色の小鳥が飛んできた。
すでに給仕のメイド達も意中の相手が誘いに来たりして、ほとんど姿を消してしまっていている。
テーブルの脇に立っていたあたしの頭の上でくるりと回ると、ゆっくり肩の上に留まった。
「へ? あたしに懐いてどーすんのよ?
レイナはあっちでしょ?」
思わず問いかけると、末姫のように小首を傾げる。
「――あたしまでナンパしてるんじゃないでしょね?」
ぴ。
――会話が成立してしまった……。
「おー、リナ♪」
「わーい、おかーしゃんだ♪」
目ざとく見付けたガウリイと末姫が、踊りの輪から抜けて喜色満面で迎えてくれた。
「レイナ、鳥返しに来たわよ」
あたしが促すまでもなく、鳥はまたレイナの肩の上に乗る。
「ありがとー、鳥しゃん(はぁと)」
「ありがとうって何よ?」
「しゃびしいから、おかーしゃんもしゃしょってきてっておねがいしたの♪」
「――淋しいって…、こんなにいっぱいいるでしょーに」
「うん、レイナじゃないの。おとーしゃんなの」
―――は?
ガウリイを見ると、右手で鳥を撫でながら、左手は頬をかいている。
「――だってなぁ。おまえ一人だけ、置いてきぼりじゃないか」
「――いや、あたしは単にお昼してるだけで――」
だからね、あたしは常識人だから、ゴーレムと踊るシュミはないわけで――てなコトは、レイナの前では言えないし。
「おとーしゃん、おかーしゃんがきてくれてよかったね♪
おかーしゃん、おとーしゃんとおどってあげてね♪」
すっかり平和な勘違いしまくりのまま、レイナは小鳥と一緒に輪に戻っていってしまった。
「だからぁ、そーじゃなくてぇ〜」
その場に残され、ダンスに興じる人々の波をバックに、浮きまくるあたしとガウリイ。
「オレと踊るんじゃイヤなのか?」
………ちょっと、何でそんな困った顔してんのよっ。
娘の言う通り、ホントに淋しいんかいっ!?
「……そんなコト………言ってないでしょーに……」
「オレはリナと踊りたいぞ」
―――真顔で言うなよ。ンなセリフっ。
こしょこしょっ。
「ひやっ!?」
いきなり脇腹をくすぐられて飛び退いた瞬間、あたしは前に一歩押されたガウリイの腕の中に収まっていた。
「ちょっとっ!?」
あたしの後からバーク、ガウリイの後からラーグが顔を出して。
『ったく、まだるっこしいんだから』
見事なシンクロ台詞を吐く。
「あんた達っ、いつの間に!?」
叫ぶあたしにウィンクして、二人はまたするっと輪の中に紛れてしまった。
「あんたも離しなさいよ、ガウリイっ!」
「やだ」
反論する間もなく、いきなりとんでもない行動に出るゴーレムとタメ頭脳。
「きゃあ♪ リナったらぁ、らぶらぶぅ(はぁと)」
――ナタリーが悶えるのも無理はない。
公衆の面前だとゆーのに、この亭主はぁぁぁぁっ!!
しっかりホールドしよって、密着度まっくす。
もうっ、チークタイムじゃないでしょ、今はっ!!
………………………………………………あほぉ。
ガウリイのリード――っつーよりは、単に脱出不能で振り回されてるような状態――で、あたしは強制的に踊らされていた。ええ、文字通りに。
この長身男ときたら、あたしの腰をほとんど抱え上げるような恰好にしてるもんだから、足先しか地に着いてないんだもん。
どーすれとゆーのだ、この状況。
「――あんたって、そんなに踊りたかったワケね」
「だって、もう話付いたんだろ?」
「――なにぃ???」
振り回されながらも見上げると、いつも通りのにっこり笑顔。
「違うのか?
さっき女王と話してる時は深刻そうだったのに、その後はレイナとはしゃいでるし、顔つきも出発する前よりすっかり明るくなってるから、てっきりそうだと思ったぞ」
「――――あたし、そんなに暗い顔してた?」
「うーん、顔ってより気配かなぁ」
「――密かに気にしてたワケ?」
「それはおまえだろ?
レイナが心配で心配でしかたなくて、離したくなかったくせに」
「――失礼ね。そんなに悲愴モードになんかなってなかったわよ」
「自分で気付いてなかっただけだろ?
まあ、オレじゃなきゃ気付いてないかもな」
これは自慢か、うぬぼれかっ?
「本人も自覚ないコトだっつーのに、妙に自信ありますこと」
「だって、大事なおまえのことだからな」
――――――――――――。
足を踏んでやりたい衝動に駆られたが、踏みしめられない。
どこか叩いてやりたかったが、密着してて自由にならない。
それでも、何かしてやりたかった。
この自信過剰な天然男に。
憎たらしい位、あたしのコトを見透かしまくってる野郎に。
許せない程に――――
「―――あんたってホントに――――」
「ん?」