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リナは言った通り、また数日後にやって来た。
いくらのほほーんガウリイでも、人恋しくないと言えばウソになる。
リナとの会話は、彼にとってとても楽しいモノだった。
リナにとっても、自分と同じレベルの実力を持つくせに、やたら気のいいガウリイは気を張らずに話せる嬉しい相手になった。
料理上手なリナはガウリイの分まで食事を作り、共に楽しく過ごし。
夜は夜で、今までここでは野宿が当然だったリナを、ガウリイは小屋に招き入れた。
「食事の礼だ。おまえさんがベッドを使っていいよ」
「――あんたは?」
「ここは元々旅人用の簡易宿泊所なんだぜ。
ちょっとサイズが小さいけど、外でも使える組立式の簡易ベッドがある」
「それあたしが借りるわ。
外で寝るのは慣れてるし、雨露を凌ぐのに使ってた洞窟があるから、そこへ行けば大丈夫だってば」
「オレだって傭兵なんだぜ。野宿くらいどうってコトないさ」
「――だからって…」
さっさと折り畳まれたベッドと毛布を持って出ていこうとするガウリイを、リナが引き留めた。
「じゃあ、こうしない?
ベッドは借りるけど――、あんたも中で寝て」
ガウリイは目を丸くした。
リナはそれを見て、耳まで真っ赤になる。
「い、い、言っとくけど!
ぜ、ぜったい誘ってるとかじゃないからね!
中で寝るからって、何かしたりしたら、魔法で丸コゲにしゃうわよ!」
リナのうろたえぶりに、ガウリイは苦笑い。
「わかってるって――さてはおまえさんキスもまだなんだな?」
ばきっ!
照れ隠しの拳が炸裂して、うやむやのうちに小屋で休むことが決定していた。
それは、衝立を隔ててお互いの寝息が聞こえると言う、安心出来るような落ち着かないような夜の始まりだった。
さらに翌日からは、ガウリイがリナの調査に付き合うと言い出し――。
「おまえさん一人だと心配だからなぁ」
「そんなヤワじゃないわよ」
「いいじゃないか、一人より二人の方が楽しいだろ?」
「――そりゃそうだけど…」
いつの間にか状況を楽しんでいるガウリイに、リナは苦笑するしかなかったが、―――彼女にとっても一緒にいるコトがとても楽しいのは否定出来なかった。
――こんな調子を何回も繰り返し。
二人はごく自然体なまま、急速に親しくなっていった。
冷静に考えれば敵国の傭兵同士、接触するだけでも、御法度中の御法度なのだが。
お互いに直接戦とは関係ない役目に就いているせいか、元々自国でないためにそういう対立心が薄いせいなのか、それは大したストッパーにはなっていなかった。
むしろ、互い以外に誰もいない場所で敵対しあう方が、よほど不毛なコトと思えた。
そして――禁じられたモノにこそ、人は惹かれるのかもしれない。
二人はお互い気付かないうちに、より深い想いを抱き始めているとは――まだ気付いていなかった。
当然のこととして、リナはガウリイの元に味方の兵が来る日をチェックした上で予定を組んでいたのだが――。
この任務に就いてから、数日実地調査に出かけては、数日報告や研究に費やすという繰り返しで、サイクルはその時によって不定期だった。
無論今までも補給の兵が来る日は避けて予定を組んではいたのだが、野宿を余儀なくされると言うのもあって、天候を一番に考え、それほど長期の日程を組んだコトはなかった。
けれどいつの間にか――何とか空白の辻褄を合わせて、少しでも長く調査の名目を組むのに執心するようになっていた。
ガウリイと一緒に過ごせる時間がとても大切で、貴重に思えて。
彼に会えない間は会える日までを数え、会って別れる時はもどかしいような切なさを感じるようになっていた。
その感情を何と言うかは――ある日、リナの属する陣に常駐している巫女のアメリアから示された。
気心の知れた間柄の二人は、一緒にアメリアの私室で昼食を取っていた。
「――ねぇ、リナさん。ちょっと訊いてもいいです?」
「なに?」
「もしかして――好きなヒト出来たんじゃないですか?」
その時のリナの動揺ぶりときたら、双方驚いたくらいで。
アメリアとしては、最近妙に物思いにふけったり、何となくキレイになって来たコトに対しての、一番可能性がありそうな謎かけだったのだが――。
気は強いクセにシャイなリナの性格をよく知っている彼女は、真っ赤になってしまった友の姿に、十分すぎるくらいの返答をもらったと思ったのだった。
リナはリナで、それ以来、ガウリイを思い出すたび、恥ずかしさに騒ぎ出したい衝動に駆られるようになってしまった。
ガウリイの顔をまっすぐに見られないとか思っては、会えないのは耐えられないと思ったり。
まことに古典的ではあるが、やはりいつの時代も恋は恋。
文字通り、リナは恋する乙女の王道にどっぷりとハマリ込んでいた。
一方、ガウリイの方はもうちょっと経験があったようで――。
リナに対して自分が抱いている感情が、そういう類〈たぐい〉に属するとなんとなくは自覚し始めていた。
ただ――リナがあまりにまだ少女という名の子供なこと、自分達の置かれている状況の面倒さなどを考えると――、そのままどっぷり浸り込むワケにはいかないと思えて。
けれど、そんなモラルや理屈で御せるのが可能なら――恋情と言うモノが人を破滅に導いたりはしない。
どんどんリナに惹かれていく自分を押しとどめようとするのは、ガウリイにとっては魔族の集団と戦うより大変な難題に感じられた。
一月ほどはそんなこんなで過ぎ去り――。
やがて、ターニングポイントらしきものが訪れたのだった。