★6★
ずいぶん長いコト、ガウリイは戻ってこなかった。
ようやく傷を治し終わったリナは、脱力感に横になってうとうとしていたものの――、自分の感情に弄ばれているような感覚は治まらない。
ガウリイに早く戻ってきて欲しいという願いと、ずっとこのままいないで欲しいという恥ずかしさなどが入り交じる。
「……ガウリイ……」
自覚のないまま呟いた名に、自分で驚いてしまう。
まるでただの無力な小娘レベルにまで墜ちてしまったようで、情けなさ大爆発なのだが――、そんな簡単に感情のコントロールが出来るほど、こっち方面の経験はなく。
いっそ告白してしまえれば簡単なのかもしれないと思い――、その照れくささや相手にされなかった時のコトを考えると――とても出来なくて。
さらにしばらく経ってから――待ち人はようやく帰ってきた。
リナは反射的に身を起こして、笑顔になっている自分に気付き、自嘲する。
「もう治せたか? 気分はどうだ?
ほら」
ガウリイはまたリナの横に腰を降ろすと、大きな掌に乗せて小さな実を出した。
「栄養があるヤツなんだぞ。
いつもはなかなか見つからないんだが――あってよかった」
「――あたしに? わざわざ――探してきてくれたの?」
「治療呪文って、オレもかけられたコトあるが――けっこう消耗するじゃないか。
少しでもと思ってな」
「――ありがと…」
「おう。ちゃんと食べろよ」
リナは皮を剥くと、小さな赤い実を口に入れた。
「す……すっぱぁ……」
「それが難点なんだよなぁ」
「最初に言ってよぉ」
「言ったら食ったか?」
いたずらっぽく笑うガウリイに、リナも笑い返すしかない。
「――しかし、あんな風にデーモンが出てくるってのは、何なんだろうな」
「まだわかんないわ、何か原因があるのは間違いないんだろうけどね」
口直しに入れてもらったお茶を飲みながら、リナは答える。
ガウリイはしばらく考え込むように黙って――ぼくとつな感じで呟いた。
「――おまえさん、調査から手を引く気は――ないのか?」
「な、何よいきなり――」
「いやぁ、今日みたいなことがまたあるとなぁ……」
リナは少しムッとして。
「今日はあんたのお客がいたからでしょう?
普段ならこんなドジは踏まないわよ!
あたしの腕を信じてなかったわけ?」
くってかかってきたリナに、ガウリイもつられて大声になる。
「信じてるって!
だが、こんなことがまたあったら、こっちもたまらんじゃないか!」
「心配してくれなくってもいいわよ!
こっちが勝手にやってるだけなんだから!」
「そんなワケに行くかよ!」
「何でよっ!」
ガウリイは何か言いかけて――急に口ごもった。
「――何よ……、あたしが邪魔なら邪魔って言えばいいでしょ?」
本心ではそんなコトを言われたら立ち直れないと思いながらも、意地っ張りの口は勝手なコトを言葉にしてしまう。
「――それなら、もう調査に来ても――ここには来ないわ。
……それで……いいんで……しょ……」
自分を裏切る自分にも腹を立てながら、必死でこみ上げて来るものを堪える。
「――そんなこと――言ってないだろ…!」
突然言い捨てると、逞しい腕がリナの身体を乱暴に包み込んだ。
驚くどころか状況が把握できてない少女を、がっしりと抱きしめて――ガウリイが耳元で囁く。
「――おまえが危ない目に遭うのを――黙って見てられると思うのか?」
「――だって……」
「――だから…! 心配でしかたないんだって――」
そこでまた言い留まると、ガウリイは大きく息を吸って――
「――好き――なんだから――」
大きな目をいっそう見開くリナ。
「……い……い、いま……?」
ガウリイの抱擁はもう、軋みそうな勢いになっている。
それでも、今は気にならない。
「――おまえに――ホレちまってる――んだって――」
「――ホント……に……?」
今度は乱暴にリナの身体を引きはがすと、唇を重ねるガウリイ。
もちろんリナにとっては初めてで――、驚きと混乱にアタマは真っ白、なすがままになるしかなかった。
離された時は、ぐったりと脱力。
その身体をまた抱きしめて、ガウリイが頬ずりする。
「これで――信じるか?」
リナはようやく我に返ると――、思いっ切りしがみついた。
厚い胸板から激しい動悸が、服越しにも響いてくる。
「――リ――リナ?」
「――あんた――って――あんたって――」
ガウリイの抱きしめる力が緩む。
「――怒ったのか?」
「――ばか……。
あたしの気持ち――なんか――これっぽっちも――気付いてないじゃない……!」
「…リナ?」
「…あたしも……、……あたしも…好きなの……っ!
あんたのコト……ずっと……」
絞り出すような精一杯の告白に、ガウリイは歓喜の声を上げて、またがっしり抱きしめた。
「リナ…! リナっ!」
リナは真っ赤になりながら、そっと抱き返す。
上向かされ――また唇が重なってくる。
どうしていいかわからないリナは、ただ素直に受け止めていた。
「愛してる――リナ」
優しい囁きに、リナは頬を染めながら逞しい胸に頬ずりする。
「――大好きよ――ガウリイ……」
抱きしめながら、ガウリイも頬ずりを返す。
「ずっと――こうして抱きしめたかった」
「――あたしも――よ」
リナが抱き返し――また繰り返されるキス。
今まで悶々としていた分を埋めるように、二人は抱擁を繰り返していた。